映像制作では、ついついなんでもかんでも込み入った複雑な映像にしてしまいそうになるものです。作り手としてもそのほうが頑張っている感は出ますし、依頼者としてもその方がわざわざコストをかけた分だけの努力が見られて満足はしやすいでしょう。でも、そうして手間をかけて複雑にすることが、必ずしも良いというわけではないのです。
シンプルなものが目を引くことがある
たとえばAfter Effectsを駆使した複雑な動きの素材が入り乱れるような動画、そのような動画を作るのには、たとえ1分くらいの映像であっても作るのに数日間かかることは多々あります。
それに対してたとえば真っ黒な背景に写真が1枚ずつズームで映されるCMのような映像。正直1時間かからないで作成することができるでしょう。色調やズームのタイミング、音楽のボリュームなどにすごく細かくこだわったとしても2時間かかることはまずないです。
しかし、後者の方が目を引くことがあります。ではなぜそうしたシンプルなものが目を引くことがあるのでしょうか。
メリハリが効いているから
それは、周りのものと比べてすごくメリハリが効いてることがあるからです。今の時代、複雑な動きを用いたCMや動画などはすごく多くなっています。ただ写真を動かすだけのスライドショーにおいてすら、動きは複雑化してきています。インフォグラフィックスのCMなども増えてきていますし、人は複雑な動き、派手なエフェクトに慣れているのです。
そんな中、時代にそぐわないようなすごくシンプルなつくりの動画が流れてくる。一瞬目を奪われることは確実でしょう。言うなれば、ずっとEDMのようなダンスミュージックが流れていたところに、いきなり合唱曲が流れてくるようなものです。誰だってそれには耳を奪われてしまうのではないでしょうか?それと同じことが動画でも起こるという話です。
トレンドを正しく理解してメリハリをつけないといけない
ただ、いつでもなんでもシンプルにすればいいのかというと、当然そんなことはありません。みんながみんなシンプルなものを作成しようとしたら、今度はそれがトレンドになり、シンプルにしても全くメリハリがなくなります。
つまり大切なことは、メリハリが効いたことをすること。それをするためには、映像の世界のトレンドを正しく把握していないといけません。それはやっぱり何らかの形で日々映像に携わる人間でないと難しいところがあります。
こうしたメリハリのつけ方は、全体に効かせるだけではなく、たとえば一つの動画内の特に目立たせないポイントで活かすということもできます。ずっと複雑な動きやカラーリングだったところに、いきなり黒背景の白文字が現れたら、メリハリが効いて目を引かれます。シンプルさというのはこのようにいろいろな使い方が出来て時折武器にもなるので、あえてそれをする勇気というのも映像制作には必要なのです。
テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人