時代は移ろっても、世代を問わずクイズ番組には一定の人気があります。皆さんの中にもクイズ番組を楽しみにしている方は多いのではないでしょうか。確かに人気は続いていますが、少々、乱立気味だとの指摘もありますし、番組の制作手法や視聴者の視聴方法などは、時代に合わせて大きく変わってきています。テレビ離れが叫ばれる中で、なぜ根強い人気を保てるのか。今回はクイズ番組を取り巻く現状について、視聴者側、制作側双方の視点から、探っていきます。
クイズ番組のあゆみ
クイズ番組のルーツは意外に古く、テレビの本放送が始まった1953年には、すでにNHKで「仕事」に関するクイズ番組が放送されています。ほどなくして民放も参入し、クイズ番組は百花繚乱の時代を迎えます。今でも伝説として語り継がれる番組は数多ありますし、中には司会者のキメ言葉が流行語になったケースもあるなど、まさにお茶の間に溶け込んだコンテンツといえるでしょう。多少の盛衰はあっても、クイズ番組は安定したジャンルとして、基本的には「問題&解答」をセットにしつつ、バリエーションやアレンジを凝らして、人気を集めてきました。当然、近年の視聴形態の変化にも対応し、テレビ離れをギリギリで食い止める大黒柱の一つになっています。
視聴者にとっての魅力は…
では、現代の視聴者にとって、クイズ番組にはどんな魅力があるのでしょうか。まず、普遍的には、クイズを通して、自分の世界を広げられることが一番の魅力といえるでしょう。テレビを見ながら楽しく学べますから、知的好奇心を満たせますし、日本人にとって、勉強とは違った方法で手に入れる知識は「ある種の快感」ともいえます。普段、知的イメージとは縁遠いお笑いタレントが、有名大学を出たクイズ王たちと互角に渡り合う意外性も、視聴者の関心を引き付ける上で、一役買っているといえるでしょう。
平成以降に出始めた「世代間ギャップ」を逆手に取ったクイズ番組も、現代を象徴する番組と言えます。高度成長期までのクイズ番組に比べ、現代は世代ごとの価値観があまりにも多様化し、クイズで問われる「常識問題」のラインが測れなくなってきました。つまり、親世代にとっては常識でも、子供にとっては全く知らないことがありますから、全ての視聴者が楽しめる問題を出すことが難しくなっています。世代間ギャップを逆手に取った番組は、まさにこうした多様性を背景に生まれ、今なお、クイズジャンルの中で一定のポジションを築いています。そして、親世代にとっても、過去のクイズ番組で出てきた映画や音楽など、クイズをきっかけに好きになったり、新たな発見をしたりすることも、クイズ番組の魅力の一つになっています。
背景にある視聴形態の変化
クイズ番組の人気が根強い理由の一つに「ながら視聴に強い」という指摘があります。テレビを見ながら、スマホやタブレットを操作しているという人が増えてきていて、番組の視聴形態にも大きな影響を及ぼしていることは首肯の向きも多いでしょう。例えば、バラエティやドラマなどは、ある程度、まとまった時間、見ないとおもしろさが伝わりません。ですから隙間時間にスマホを操作しながらの視聴では、内容についていけなくなり、テレビから離れてしまう傾向にあります。しかし、クイズ番組ならば、出題から答えに至るまで、ほぼ1分もかからず、スピーディーな展開が望めます。IT化の進展に伴い、スマホやタブレットを片手にテレビ視聴するのが当たり前になったいま、クイズ番組は視聴者のニーズに合致しているといえます。
「逆風」の制作現場の頼みの綱
一方でクイズ番組が蔓延ることはテレビ業界にとって、必ずしも明るい事情ばかりとはいえません。なぜなら、テレビ業界には「クイズ番組が元気なときはテレビが不況のとき」という言葉があるからです。どの局でも、収入減に伴う予算縮小の嵐が吹き荒れるいま、制作費があまりかからず、スポンサー受けのいい「クイズ番組」は制作サイドにとっても、非常に都合の良いコンテンツになっています。
クイズ番組はドラマやニュースなど、他のジャンルの番組に比べて比較的低コストで作れます。まず、一度セットを作れば、長く使い続けられますし、問題によってはロケも要りません。問題の作成も莫大なコストはかかりませんから、制作サイドの人員は最小限で済みます。トーク番組ならば、演者のネタ力が番組の成否を左右しますが、クイズ番組では適度なキャラクターのある演者を揃えれば、番組が成立してしまいます。昔は提供スポンサーから賞品が出ることもありましたが、いまでは滅多にありませんし、賞金もほとんど見なくなりました。それでいて、そこそこの視聴率も期待できますから、制作費の縮小を続けるテレビ各局にとって、とても魅力的なコンテンツに映っています。
負担が大きい「視聴者参加型番組」
バブル崩壊以降、視聴者参加型番組が急速に減っていったことも、制作現場の変化の一つといえます。視聴者参加型番組には「リアリティ」や「芸能人のような忖度が不要」という強みがある反面、オーディションなどの手間がかかります。クイズ番組も例外ではなく、確認や配慮、誘導や緊急対応といった参加する視聴者への手厚いフォローが欠かせません。加えて「出演同意書」を交わしていても、当日来なかったり、収録後に「やっぱり放送しないでほしい」などの心変わりもあったりして、収録前後のスタッフの労力は想像に余りあります。近年は個人情報保護や、放送前の情報漏洩といった新たな問題も派生してきたため、少しでもトラブルが起きると、格好の攻撃材料にされてしまい、テレビ局が手を出しづらくなってしまっています。
クイズ番組はどこへ向かうのか
ここまで、ご紹介してきたように、クイズ番組隆盛の背景は必ずしも明るい材料ばかりではありません。ドラマやバラエティなど他のジャンルの番組を同じコストで制作することは難しく、チープさが見え隠れすると作る側も見る側もモチベーションが保てず、そこに向かわざるを得なくなっているという側面もあるでしょう。しかしながら、昨今のクイズ番組には、こうしたネガティブな面を感じさせないクオリティの高さがうかがえます。過去のクイズ番組で鍛えられたクイズ王たちが、今は問題を作成する側に回り、問題の質が回を追うごとに洗練されているのも一因ですし、あまつさえ、制作現場の切迫した懐事情が、逆に「絶対に解かせない」という問題作成者の闘志を生み、負けられない戦いを盛り上げるという望外の「演出」になっている点も見逃せないでしょう。ひょっとしたら視聴者は知らず知らずの内に、画面から滲み出る緊張感や圧迫感を感じ取り、熱狂へと導かれているのかも知れません。
私たちの心から知的好奇心が失せない限り、クイズ番組が消えることはないでしょう。しかし、その形態は時代に合わせて、これからも変化を続けていくことは論を俟ちません。どんな演出で視聴者の知識欲を刺激してくるのか。テレビ草創期から不動のコンテンツに君臨し、現代は業界不況の救世主としての役割も担うクイズ番組は、文字通り「答えのない問い」に挑んでいるといえるのかも知れません。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要