「盛り」「映え」…SNSの撮影テクニックはテレビがルーツ⁈

「盛り」「映え」…SNSの撮影テクニックはテレビがルーツ⁈
2020年8月17日 ninefield

ここ数年、SNSの盛り上がりに伴い、投稿する写真や動画の「映え」感に気を遣う投稿者が増えています。作品の出来栄えが再生回数や話題性に直結するためで、料理や景色をはじめ、様々な撮影現場で「映え」感が問われるようになりました。最近は、室内で撮影されるケースも増え、その傾向はますます高まっています。この「映え」感、何も今に始まった話ではなく、テレビや映画では、ごく普通に必要とされてきました。特にCM制作やドラマの分野では、今でいう「盛り」のテクニックが満載で、多くの優れた作品を生み出す上で欠かせなくなっています。以前はフィルムやVTRベースの編集も珍しくなく、撮影時の比重がモノをいう場面が目立ちましたが、近年はノンリニア編集の普及で、誰でも手軽に「人物の顔」を変えたり、食べ物に色味を加えて、いかにも「おいしそう」に加工したりすることが可能になりました。タイムラプスもノンリニア編集で容易にできるようになった手法の一つです。編集現場のコンピュータ化とCGや特殊撮影分野の著しい発展は、相乗効果をもたらし、数年前には考えられなかったような作品も続々、誕生しています。今回は、テレビ業界で使われているアナログな「映え」テクニックを手始めに、音声も含めた撮影技法全般について考察していきます。



 

 



独自のアイデアツールや高機能カメラなども積極活用

まず、前提として、「プロ」は意図する映像を撮影するために、あらゆる手段をとります。
例えばステーキのジューシーさを撮るためには、フライパンの側面の部分を一部、切り取り、肉を真横から撮影できるようにします。麺料理であれば、予め、「箸上げ用」の麺を用意し、箸に「入れ歯安定剤」を塗って、落ちないように麺を固定。さらに携帯用美顔器などのスチーム機器で湯気を演出します。ビールであれば、美味しそうな泡を立てるために、少し塩を入れたり、霧吹きで結露をグラスにつけてみたりします。「おいしく見える」瞬間を逃さないために、1秒間に30コマ以上撮影できるハイスピードカメラも御用達機材の一つです。

 

作品づくりに欠かせない照明テクニック

いい撮影には優れた照明テクニックも不可欠です。戦前の大女優は、自身の写り映えを少しでも良くしてもらいたいために、こぞって照明マンたちにつけ届けをしたという逸話があるくらいです。加齢でしわが目立つ女優を「照明の当て方」一つで、若返らせるテクニックは現在でも充分、通用しています。ひと昔前に流行った「美白」ですね。

照明は当て方によって映り方が変わるので、被写体に対し、照明を真正面から当てるのは、場合によっては被写体の魅力を殺してしまいます。太陽光が入る部屋であれば、
被写体の斜め後ろから、フィルターなどで自然光に似せた光を当て、「正面」「天面」「側面」と三面の明るさに差をつければ、立体感が格段に増します。

この他にも、照明の前にかざして、光を拡散させることで、光や影をソフトにする「ディフューザー」やタングステンの光を太陽光に似せるために被せる「ブルーフィルター」、さらには、逆光の際に被写体が暗く映るのを防ぐために、反射した光を被写体に当てる「レフ版」といった機材もあります。

 

画角やアングルにもプロならでは気配りが…。

二つの被写体を撮る場合、無理やり、一つの画角に収めようとするケースがありますが、敢えて一方の被写体を「見切れ」させるのも、よくあるテクニックの一つです。また、顔のアップを撮る場合でも、広角レンズで被写体に近づいて撮るのと、離れた位置から望遠で撮るのとでは、画の雰囲気は大きく変わります。「最初にルーズなバストショットで撮り始め、話が佳境を迎えたら、徐々にズームインしていき、最後は額が見切れるサイズまで詰める」なんていうようなインタビューショットもよく目にします。

さらに、大事なのはアングルです。人の目線の高さのことを「アイレベル」と言いますが。人物が被写体の場合、アイレベルより「上」のアングル、つまり俯瞰で撮れば、物事を小さく見せる効果があり、その人物の地位・権力の低さや、心理的な弱さを印象づけます。逆にアイレベルより下のアングル、いわゆる「あおり」なら、人物を大きく、尊大に見せる効果があります。

また、初心者や少し撮影に慣れた人は「ズーム」や「パン」、「チルト」といった動きのある画を求める傾向があります。撮った時は確かに「その気」になるのですが、いざ、編集の際に、フィックス(固定)カットが少なすぎて、編集マンが途方に暮れる場合があります。意図があって、動きのある画を織り交ぜるのはさておき、はじめは「フィックス」だけでつながる画作りを心掛けるべきです。編集後の作品を想定しながら、撮影に臨むのがプロのプロたる「ゆえん」と言えるでしょう。

 

「音」の重要性

実は意外に見落とされがちですが、映像作品を視聴者や顧客に満足してもらえるように仕上げたいなら、音への気配りは欠かせません。音は「作品としての映像」を補助する重要な役割を担います。換言すれば、プロの映像作品は音声にもこだわり、音の質の違いは作品のクオリティの差になります。
収音するマイクは大きく分けて「コンデンサ」型と「ダイナミック」型の2つあります。コンデンサ型は周波数特性がフラットなのが特徴で、なかでも、「エレクトレット」と呼ばれるタイプは、「ぬけ」の良い音質が得られる上、小型かつ軽量です。通常のコンデンサ型に比べて電源供給量が少なく、価格が安いのもメリットです。ダイナミック型は「大音圧」や「衝撃」、それに水分に強い特徴があり、電源供給が不要なこともあって、外でのロケに大活躍です。音楽の面でみると、最近は著作権フリーのBGM素材が増え、CDの他、有料WEBサイトからもダウンロードできるようになりました。もちろん、音声収録に関しても、音源の数や、その音源が動くかどうか、それに周囲のノイズなど、事前のリサーチと準備は当然と言えるでしょう。

 

「アイデア」がキラ星のごとくあるテレビ業界

これまで、お話ししてきたように、テレビ業界には映像を作品にする上でのアイデアがキラ星のごとく存在します。テレビの黎明期に、映画業界から転身してきた人材のテクニックがベースになって、時代の流れや機材の進化が加わり、独自の変化を遂げてきました。近年ではこれに動画投稿サイトが加わり、日々、新たな撮影・編集のテクニックが生まれています。一方で、昔は「ご法度」だった手法、例えばカットとカットのつなぎに脈絡が無い「ジャンプカット」が、YouTubeでは当たり前になっていますし、ビデオカメラマンが最初に習う「ロング」「ミドル」「アップ」という撮影の基礎も、作品を見る限り、昔ほどは重視されなくなったように思います。とはいえ、YouTuberも元々はテレビを観ていた世代で、テレビに触発されて、作品を世に出しているクリエイターが多いことは論を俟ちません。高価な機材を使い、あらゆるテクニックを駆使して、チームで協力しながら、一つの作品に仕上げる…。その精魂込めた作品が、視聴者やクライアントに評価される醍醐味は、まさに業界にいてこその経験と言えるでしょう。先輩たちが営々と築いてきた撮影テクニックを「実地」で学ぶには、映像業界に入って、経験を積むことが、最も早道と言えそうです。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人