スマホだけでどこまで撮れるのか 作れるのか

スマホだけでどこまで撮れるのか 作れるのか
2020年5月25日 ninefield

ちょっと前なら誰も信じられなかったと思いますが、今のスマホはHDレベル、フルHDレベルならお手のもの、中には4K動画を撮影できる機種まであります。
さらに撮影した動画を、そのままスマホだけで編集することも可能になりました。つまり今まで撮影用ビデオカメラで撮影して、スタジオで編集していた動画制作が、事実上スマホ1つで完結できるようになったのです。
とは言ってもスマホはあくまでもモバイル端末。しょせんスマホならこの程度、となるのか、それともスマホでここまでできるの、という驚嘆すべき能力を持っているのか?
最新スマホの実力を検証してみましょう。



 

 



カメラとしてのスマホの実力

本来カメラの性能を左右するのは、まずはレンズの品質で、さらにカメラ本体に内蔵されたセンサーや映像記録素子などの性能です。
この基本から考えると、猫の目ほどの小さなレンズしかないスマホで、業務用カメラに匹敵する映像が撮影できるはずがありません。

しかし、現在出回っているiPhoneやAndroidのスマホでは、ごく当然のようにフルHDレベルの動画が撮影できてしまいます。
現在販売されている機種の中では、ソニーのXperia、シャープのAQUOS、サムスンのGALAXY、そしてiPhoneの最新型なら4K動画も撮影できてしまいます。

しかも撮影した映像を確認すると、家電量販店で売っている家庭用ビデオカメラと、ほぼ拮抗するレベルに撮れてしまいます。
スマホの写真がハイレベルなのはもはや常識ですが、動画もすでに驚くべきレベルです。ではなぜ小さなスマホで、プロも驚くような高画質映像が撮影できるのでしょうか。

 

基本的なスマホの仕組み

試しにスマホをバラバラにしてみましょう。(実際に試すことはおすすめできません。)現在のスマホは小さなパソコンと呼べるほど、よく似た構造をしています。

バッテリー、ディスプレイ、各種センサー、カメラレンズなどを取り除くと、パソコン同様にマザーボードが残ります。そこにはCPU、ROM、RAMなど、パソコンでおなじみの部品がよりコンパクトに収められています。

こうした部品の性能が飛躍的に高まったことで、小さなレンズから取り込んだ映像でも、高性能のセンサーやデジタル変換技術によって、4Kレベルにまで対応できる動画が撮影できるようになりました。

極端な言い方をしてしまうと、スマホはパソコンにレンズをくっ付けて、それを持ち歩いているようなものなのです。レンズから入ってきた映像を、直接デジタル機器に取り込めることが、スマホの画像処理能力を大幅に向上させているわけです。

 

スマホで動画を撮影する

一定レベルのスマホならフルHDでの撮影ができますが、高画質になるほどデータ量が大きくなるため、スマホのストレージでは不足することがあります。
スマホでの動画撮影は、用途に合わせて画質の設定を変えることと、長時間の録画は避けることがポイントです。

機種によってはスマホの枠を外れて、撮影に本気になれるものもあります。ソニーのXperia上位機種には、映画撮影用カメラ開発チームの監修による「Cinema Pro」という撮影アプリケーションが搭載されています。

このアプリを使うことで撮影時の詳細な設定が可能になり、スマホで撮ったとは思えない動画が撮影できます。設定は画像解像度から始まり、フレームレート変更、マニュアルフォーカスなども可能です。

さらに自分が撮りたい映像のテイストに合わせて、9種類の色調・明度設定から最適なものを選ぶことができます。また使用するレンズサイズも3種類から選択でき、プロ用カメラと同じくシーンに合わせてホワイトバランスの設定もできます。

ここまでくると、完全にスマホの枠を逸脱していますが、通常のスマホでも動画撮影用アプリをダウンロードすれば、家庭用ビデオカメラに遜色ない映像が撮影できて、ネット配信レベルなら充分に対応可能です。

 

スマホで動画を編集する

高画質で撮影した動画をスマホのみで編集する場合にも、現在は多くの動画編集ソフトが提供されています。
その中でも本格的な編集が可能なソフトを3つ紹介しましょう。

①Adobe Premiere Rush

言わずと知れた業務用編集ソフトのモバイル版です。撮影用ソフトとしての機能も備えており、豊富な編集機能と合わせることで、スマホで撮影した動画をす早く編集してSNSで公開するなどお手のもの。

カラー・サイズ・フォントなどの、多彩なテンプレートを備えたグラフィック機能も充実していて、テキストも自在にデザインできます。またクラウド機能を通して、パソコンや他のモバイル機器と連携可能なところも魅力です。

②KINEMASTER(キネマスター)

スマホを使って、プロでも動画編集ができるというソフトで、パソコン用動画編集ソフトに迫る機能を備えています。
動画・静止画・テキストなどを複数のレイヤーに配置でき、最大8つのオーディオトラックを使ってのミキシングまでできてしまいます。

他にもクロマキー合成やナレーション録音機能もあり、編集中のレンダリング時間を気にすることなく、スムーズに動画をプレビューできます。
スマホでの編集にここまで必要なのか、という驚きに満ちたソフトです。

③Power Director

Adobe Premiereと同じように、パソコン用動画編集ソフトのモバイル版が、サイバーリンクが提供するPower Directorです。編集作業を簡略化する機能が豊富なので、スマホでの編集作業に威力を発揮するでしょう。

またエフェクトやテキストなどのテンプレートも充実していて、SNS用のシンプルな動画なら、またたく間に仕上げてしまうでしょう。
本格的に編集する場合でも、ほぼパソコン用に匹敵するプロ仕様の編集機能が揃っています。

さて、スマホの高画質映像に、こうした編集ソフトを組み合わせると、いったどのような映像を仕上げることができるのでしょうか?

 

スマホだけで動画はどこまで作れる?

4Kクラスの超高画質動画をスマホで撮影できて、ほぼスタジオ編集ソフトと同等の映像加工ができれば、実質的には地デジやBS放送で放映できるレベルの番組が、スマホだけで制作できることになります。

例えば通常の撮影機材が持ち込めないようなロケ現場では、スマホを使って4K撮影を行い、それをスマホ映像編集ソフトで加工すれば、そのままテレビで放映できる番組を作ることも不可能ではないでしょう。

また突発的な事件や事故のように、放映までのタイムラグを限界まで小さくしたい現場では、カメラ機能に編集機能まで備えたスマホは、最低限の加工を施した動画をいち早く視聴者に届ける手段として、今後活躍の場が一段と広がるかもしれません。

 

スマホの限界

最新のスマホに高機能映像編集ソフトを組み込めば、スペック上は4Kの高画質な動画を制作することは可能です。時間をかければスタジオ制作に近い仕上がりにできるかもしれません。

ではなぜプロの撮影では業務用のカメラを使うのか、それは感覚的な言葉ですが映像の質感が違うからです。業務用カメラに装着した巨大なレンズは、光学的な技術の結晶として、光をとらえる性能を極限レベルで競い合っています。

こうした業務用カメラで撮った映像と、スマホで撮った映像は、たとえ同じ4Kだとしても明らかに違います。その違いは前述した質感や、再現力または臨場感という言葉で表されるもので、見た人の心に響くものです。

今後さらにスマホが進化したとしても、映像制作者は業務用カメラを使って撮影し、スタジオで編集作業をすることに変わりはないでしょう。

 

使い方しだいで広がるスマホの可能性

デジタル画像処理技術は近年急速に進化しています。以前ならわずか直径数センチのレンズで、ハイビジョン映像を撮影するなど笑い話でした。しかしレンズから取り込んだ情報を処理する技術が飛躍的に高まり、今では4K映像まで撮影できます。

また持ち運べるパソコンと呼べるまで高性能になったスマホなら、スタジオ用に引けを取らない編集ソフトも使用できます。スマホを持っていれば、企画~打ち合わせ~撮影~編集まで一貫して作業ができてしまうのです。

現場で起こったできごとを、取材した本人がその場で編集して、時間を置かずに放送することにより、より臨場感のある映像を視聴者に届けられる可能性もあります。
このスピード感と臨場感を上手に使えば、映像制作者にとってスマホは一つの武器になるかもしれません。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 内山 勇樹