現在多くの電子機器には、何らかのデータ記録媒体が使われています。USBやSDカードなどのように小型化も進み、応用範囲も急速に広がりましたが、やはり大容量のデータを安定的に保存したり入出力できるのはHDDです。ところがHDDの牙城を崩すべく登場したSSDが、現在急激な勢いで大容量化を続けています。今後HDDにとって代わり、映像記録媒体の主流にもなりうるSSDについて、その詳細をチェックしてみましょう。
高画質化で増え続けるデータ量
例えば32GBのSDカードを使って撮影をした場合、あくまでもめやすですが、HD画像なら約5時間分、4K画像になると約40分しか収録できません。
さらに撮影素材を編集する段階になると、大量のデータを編集システム内でやりとりする必要も出てきます。しかも撮影素材は使ってすぐに消去するわけにもゆかず、データとして保存・管理しなければなりません。そのためには膨大なデータ容量を持つ記録媒体も必要です。
幸いなことに現在記録媒体の主役であるHDD(Hard Disk Drive:ハードディスクドライブ)は、GBの単位から1,000倍大きくなって、TBの単位が一般的になりました。これで当面の保存スペースは確保できそうです。
しかし大容量のデータを扱う上では、もう一つ解決が迫られる問題が浮上しています。それがデータの転送速度の問題で、いずれHDDでは映像データの進歩に対応できなくなる可能性があります。
そこで今次世代の大容量記録媒体として注目されているのが、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)です。果たしてSSDはHDDに代わって主役の座に躍り出るのか、それを知るためにはこの2つのドライブを、客観的に比較する必要がありそうです。
映像業界を支えてきたHDD
パソコンのストレージ・デバイスとして、HDDを知らない人はいないと思いますが、これほど長期間にわたって市場を独占し続ける製品は、他には見当たらないのではないでしょうか?
パソコン用内蔵ストレージをはじめとして、HDDは外付けタイプも進化を続けていて、パソコン以外にもテレビの録画用機器として広く普及しています。HDDの強みは容量がどんどん大きくなっていることと、逆に容量あたりの価格が安くなっていることです。
HDDは記録媒体の伝統を受け継いで、回転型のディスクをベースに作られています。表面に磁性体を塗布したディスクを複数枚組み合わせ、磁気ヘッドで読み込み~書き込みをする構造は、デビュー当初からほとんど変化していません。
その後年々容量を増加させながら、現在ではTB(テラバイト)が常識になりつつあり、システムの安定性も考慮すると、精密機器としてほぼ完成の域に達したとも言えるでしょう。
広がり始めたSSDの特徴とは?
SSDは半導体メモリーチップをベースにした記録媒体で、HDDのように機械的に回転する構造は持っていません。ここ数年でデータ容量が大きくなり、現在HDDに代わる大容量記録媒体として注目されています。
その特徴は「速い・軽い・強い」で表され、容量も1TBを超える製品が登場するなど、充分ポストHDDの座を狙えるレベルにまで成長しました。
SSDは構造的に非常にシンプルで、データの読み書きはメモリーチップ上に直接行われます。HDDのようにヘッドを移動させる時間が必要ないため、読み書きの速度は大幅にアップします。
またSSDはさまざまな形状に加工することができ、内部には事実上メモリーチップしかないので非常に軽量です。しかもHDDのように機械的な駆動を必要としないため、高い耐衝撃性も実現しています。
他にも消費電力が小さくて済み、使用中の発熱も抑えられることから、ノートパソコンやその他のモバイル機器との組み合わせにも優れています。
SSDとHDDの性能比較
SSDとHDDとは構造的に大きく違いますが、どちらも大容量のデータを保存できる点では変わりありません。では両者を比較した時にSSDが優れている点は何かと言えば、それはデータの転送速度にあります。
HDDはSATA(シリアルATA)接続という規格を使って、パソコンなどとの間でデータのやりとりを行います。この規格によると理論的には1秒間に750MBのデータを転送できます。
ただしパソコンのソフトウェアがHDDにアクセスするには、AHCIと呼ばれるインターフェイスの仕様も必要です。つまりHDD~パソコン間でデータ転送を行うには、SATA接続とAHCI仕様との組み合わせが必要なのです。
ところがこの組み合わせによると、実際の転送速度は理論的な転送速度よりも大幅に遅くなります。これらの規格ではHDD本来の性能を、フルに発揮させることができないからです。
一方のSSDもSATA接続とAHCI仕様で使うことはできますが、この組み合わせではSSDの性能を活用できないことは明らかです。そこで新しくPCI Express接続という規格と、NVMeという仕様の組み合わせを採用することにより、はるかに高速でデータ転送が行えるようになりました。
PCI Expressにはデータを転送するレーンが複数あり、現在SSD用の主流は4レーンのタイプです。このPCI ExpressとNVMeを組み合わせると、理論的にはHDDの約5倍にあたる、1秒間に4GBのデータ転送が可能になります。
もちろんあくまでも理論値であるため、実際の速度はそこまで速くはないでしょう。またAHCIと比較すると、NVMeの方がデータそのものの転送速度は高速になりますが、OSやアプリケーションの読み込み速度では、それ程大きな差は出ないようです。
もう一つSSDが優れている点に、ドライブとしての寿命の長さがあります。HDDは磁気ディスクの欠損や磁気ヘッドの損傷などにより、パソコンが認識できなくなるという致命的なダメージを受けることがあります。
一方のSSDは駆動部分がないため、HDDのような故障の可能性もありません。ただしメモリーチップも経年劣化するため、一般的には1千~1万回程度の書き込みで限界が訪れるとも言われています。
しかしSSDにはメモリー上の同じ部分に繰り返し書き込まないなど、書き込みの平均化を図る機能が搭載されており、通常の使用状況であれば、限界を迎えて寿命が尽きる心配はなさそうです。
映像編集でデータの重さにイライラしたり、せっかく作った映像データがHDDの故障で水の泡などという悔しい思いは、SSDを上手に使えば防げるはずです。
SSDの相場を分析
価格の比較サイトで現在のHDD相場を調べてみると、最も安い製品は内蔵250GBタイプで2千円を切っています。同じく内蔵タイプで1TBは、最安値がなんと4千円を切っています。10TBでも2万円台の中盤から購入できる製品があり、1TBあたりの価格は3千円以下です。
それに対してSSDの方は、最安値の製品が120GBで2千円強から購入できます。ただしこのクラスの製品は、SATA接続に限定されます。PCI Expressになると、同じく120GBタイプで4千円を超えます。
SSDで1TBの製品は、1万1千円を超えるあたりでやっと登場します。現在売れ筋の製品を確認すると、SSDの場合1TBあたりの価格は、まだ1万円以上というのが相場のようです。
またNVMeのSSDは、AHCIのSSDに比べると、相場としては2倍近く高くなります。購入を検討する時には、用途と必要性を考慮して選ぶことをおすすめします。
SSDの利点と欠点を総括
最後にHDDに対するSSDの利点をまとめておきます。何よりも大きなメリットは、データの転送速度が速いことでしょう。現在のように映像データの容量が大きくなると、データのやりとりが速いことは作業効率アップに直結します。
またSSDは回転しないため、ほとんど動作音が発生せず、温度上昇も小さいのでパソコンへの負担が軽減されます。その上外付けタイプは非常に薄くコンパクトになり、大容量のデータを手軽に持ち運べるようにもなります。
一方で唯一のデメリットは、同じ容量のHDDと比較してまだ価格が高いことでしょう。しかし今後SSDがさらに普及して商品開発が進めば、コストの問題もいずれは解消されるはずです。将来的にはHDDに代わって、SSDがデータストレージの中心になるのではないでしょうか。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 高橋 孝太