上手いと思う画面構成とは

上手いと思う画面構成とは
2022年8月29日 ninefield

  普段、あまり意識しないかも知れませんが、皆さんは映像作品を観て、1カットの画面構成が上手だと感じたことはありますか?例えば、横に振る「パン」で必要以上にストロークが長かったり、イン・アウトを問わず「ズーム」のスピードに違和感があったりすると、映像作品としては流れがとてもギクシャクしてしまいます。画面構成は「フレーミング」とも呼ばれます。テレビ・映画を問わず、ディレクターや監督は必ず意図を持って、カットの撮影指示をカメラマンへ出しますから、やはりカメラマンのフレーミングに対する意識が作品成否のカギを握っていることは論を俟たないでしょう。今回はこの「画面構成=フレーミング」に焦点を当て、実例を挙げながら、良質な映像作品を作る上でのキーポイントを探っていきます。



 

 



動画撮影の「上手下手」が起きる要因

 常々、感じるのは「絵作りが上手いカメラマンは録画を始めてから無駄が少ない」ということです。被写体の動きを予測した上で、ディレクターや監督とカットプランを練っていきますから、いざ、録画を始めたら、カメラを無闇に動かすことはまずありません。よく「視聴者映像は編集が難しい」とプロの編集マンは敬遠するケースがありますが、これは、視聴者映像が何のターゲットもなく、同じようなカットを延々と撮影しているケースが多いからです。

例を挙げれば、録画を始めてからも、ちょこちょこ動いたり、さまよっていたりします。撮影のターゲットが明確でない分、撮影しながら探っている感じになるため、微妙なズームになったり、対象物への追従があいまいになったりします。逆に言えば、一般視聴者が映像を撮って、放送局へ送り、採用される場合は、事件事故や動物など「テーマやターゲットが明確になっている」ことが要因といえます。

上手いカメラマンとは…

 では「上手いカメラマン」になるには技術的にどんな要素が必要でしょうか。まずトータルな心構えとして「編集を意識した撮影」は欠かせません。最近はノー編集で1カット数十分も撮る動画や、生中継をカメラ1台で行なう「ワンカメショー」形式のものもありますが、こうした特殊なケースを覗いて、基本、テレビや映画の世界では撮影後に編集が待っています。
 
 編集で採用されやすい映像を撮影するには、まず、カメラを構える際に、手だけではなく、体の軸を使うことです。これは実際にやってみると一目瞭然で、映像の安定度合いが格段に変わります。

 また、パンやティルトの動きはスピードを安定させることが基本ですが、演出によっては、意図的に速度を変化させた方が、規則的に緩和したような柔らかさを出せる場合もあり、
カメラマンの実力差が出やすいといえるでしょう。他にもスタートポイントとエンドポイントを決めておくことも「使いどころ」のカットを撮る必須です。このポイントを決めずに撮影してしまうと、ストロークの長さが不自然になり、結果的に違和感のあるカットになってしまいます。スタートとエンドで対象物を決めておけば、編集の際に、使いどころが多く、編集マンの手を煩わせずに済みます。

 カメラがコンパクト化したことによって「スタビライザー」を使うシーンも増えてきました。スタビライザーとは直訳すれば「安定器」つまりカメラの手ブレを軽減するための機材です。実際にカメラを構えてみるとわかりますが、カメラはある程度の撮影時重量があった方が、安定した撮影が可能です。ところが最近のビデオカメラは軽量化が進み、例えばドーリーや遠望を撮影する場合、そのままではブレが多くなってしまいます。スタビライザーを使えば、コンパクトなカメラでもブレの少ない映像を撮れるようになり、上手に見せることができます。

 ここまで、撮影の際の注意点をご紹介してきましたが、一番大きいのはやはり「場数」です。豊富な経験が現場での判断力や、迅速な動きにつながり、最終的に質の高い映像撮影につながることは論を俟ちません。

ディレクターサイドの手腕

映像作品を制作するけん引役はご案内の通り、ディレクターを核とした制作者サイドの手腕です。効果的なカットの獲得はもちろん、撮影という行為の特性を十分、理解した上で、現場に臨まなければ、視聴者の心をとらえる作品は望めません。

 最近はYouTubeでも動画作品にタイトルを挿入しなければいけないので、一般人でも意識すると思いますが、テレビ番組の場合も必ず「何を伝えたいのか」というテーマや視点があります。当然、プロとしてテレビ番組を制作する際には、必ず伝えるテーマや視点を決めて撮影を進めます。そして、たくさん撮った映像から選りすぐりのカットを選び、テーマをもとにストーリーとして、繋げることはもちろん、視聴者にも伝わりやすいように抜粋する作業を続けていきます。

 番組は放送の「尺」になるまでに、その「尺」の数倍の素材を撮影していますが、尺に合わせるために何を抜粋していくか選別していくことは、一般視聴者の想像をはるかに超える難しい作業です。素材をただ切ってつなげた映像では、視聴者にとってはつまらなかったり、飽きが早くきたりしてしまいます。このストーリー、つまり構成を組み立てていくのがディレクターの腕の見せ所になります。どのようなストーリーに組み立てていくか、どの映像を使えば、伝わりやすくなるかという事を意図して、膨大なカットの中から切り出していきます。

 この作業を効率的にするという意味でも、テレビディレクターは撮影時にある程度の完成形を意識して、映像制作に取り組んでいます。これを意識しないと、編集の段階で時間が未曾有にかかり、精神的にも予算的にも大幅なロスになってしまいます。編集をしていると膨大な素材の中から「あれもこれも」と撮影したシーンを使いたくなりますが、当初のテーマを第一に「余計なものは付け足さない」という方針の下、必要なカット以外は思い切って、捨てていく胆力が問われます。

時代によって変わる価値観

  ここまでフレーミングやカットといった分野をカメラマン、ディレクター双方の視点でご紹介してきましたが、これも時代によって、大きく変遷を遂げてきました。例えば、テレビ草創期は被写体が画面からフレームアウトすることは、当然のようにご法度でしたが、喜劇中継やバラエティなどでは、これを逆手に取った演出が出始め、今では手法としては珍しくなくなっています。また、「同ポジ」もかつての放送業界ではあまり推奨されませんでしたが、今ではカットを二つ並べることで時間軸を表したり、YouTubeなどでは同一人物の1ショットを数秒単位でつないでいったりするような活用法が確立されています。最近では、テレビだと使いづらい「タテ動画」も動画投稿サイトでは隆盛を極めています。このように、テレビ業界の常識とは別に、一般視聴者からの思わぬ反応によって、カットやフレーミングの考え方は大きく変貌を遂げてきました。そしてこれからもその傾向は変わらないと考えます。今後、新しい動画のカットやフレーミングの活用法は、ひょっとしたら制作者サイドよりも、視聴者サイドで生まれた要望から発展していくことになるのかも知れません。

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人