テレビ局の中枢・編成

テレビ局の中枢・編成
2022年11月14日 ninefield

テレビ局の内容に少し通じている方なら、「編成」という部署が局の中枢を担っていることは重々、ご承知だと思います。編成は、0時から24時まで、「どのような内容の番組」を「どの順番」で「どの時間帯」に放送するのかというタイムテーブル=番組表を決めていて、すべての部署と連携しつつ、調整役を担ういわば「司令塔」ともいえる部署です。各部署と連携しながら、好反響の番組を放送することで、どのように番組を組んだら、他のテレビ局に負けずに、視聴率を高めていくことができるかを考えていくのが編成の仕事といえるでしょう。当然、マーケティング的な思考も必要十分条件です。今回は「編成部」というセクションにスポットを当て、業務内容はもちろん、マルチメディア時代只中における役割について考えていきます。



 

 



具体的な業務内容

 テレビ番組には、バラエティーやスポーツ、ドラマ、さらには報道や情報など、さまざまなジャンルの番組があります。編成部では、番組の企画や内容はもちろん、タイトル、時間帯、制作費の予算など、番組全体の編成に関わる仕事を担っています。一般の皆さんにも馴染みがあるのは、1クール=3か月ごとの編成方針を策定し、その方針の下、報道や制作をはじめ、営業や運行、さらには技術など、他の部門と調整しながら、番組を編成する業務ではないでしょうか。細かく見ていくと、番組フォーマットの調整や放送データの管理、加えて視聴率の分析や、番宣を使った視聴促進の管理、広報、視聴者対応窓口、著作権管理、コンテンツの購入や販売など、業務内容は多岐にわたります。

 例えば、広報分野だと、新番組紹介のプレスリリース作成の際、番組担当者と何度も話し合った上で、プレスリリースを完成させます。そして、多くの他の媒体が取り上げるよう戦略を練ります。一方、番組購入に目を転じれば、配給会社や系列他局から紹介された数多くのコンテンツの中から、予算も勘案した上で、番組を選び、放送します。

 編成部の大きな役割の一つに「ヒット番組を作る」ということが挙げられます。もちろん、番組の内容がヒットする条件の一番手ですが、どの時間帯にどの番組を配置したら最大限の効果を生むかという戦略も大切な要素です。そのため、編成は他の部署と連携や協力をしながら、より良い番組制作ができる環境を調整していきます。当然、編成した結果は、視聴率という形で反映されますから、この結果を基に、さまざまな観点から分析するマーケティング的な業務も付随します。

 他にも、突発的な災害時などでは、緊急特別番組を放送する決定権を持つのも編成部です。
テレビ局は緊急を要する情報をどれだけ早く正確に国民に伝えることができるかということを大切にしていますから、緊急ニュースが飛び込んできたら、一刻も早くそれを情報として伝えていきます。「緊急特番」になった場合、局内の各部署に加え、在京キー局には、各ローカル局との調整という役割も加わります。

局の命脈を握る「番組改編」

先述のように編成は「テレビ局の中枢」ですが、昭和のテレビ局といえば、報道とドラマにスポットライトが当たっていて、編成の重要性はさほど重くありませんでした。しかし、平成以降、スポットCMの多寡が局の売り上げを左右するようになると、視聴率至上主義になり、編成セクションの重要性が認識され始めました。現に、編成部が深夜枠などで企画した番組が、ゴールデンタイムへ進出するケースも珍しくありませんし、中には10年以上続く「長寿番組」さえあります。このように、現代のテレビ局では、編成部の掌握能力と視聴率の好不調には大きな相関関係があると言われていて、文字通り「編成の時代」はますます続く気配です。

 この編成セクションにおける大きなイベントが、年に2回、4月と10月に控える大規模な「番組改編」です。ご存じの方も多いとは思いますが、「番組改編」とは、番組の編成はもとより、必要に応じて、出演者や番組スポンサーを変更する作業です。4月と10月に番組が改編されるのは、年度の上半期・下半期にあたり、番組スポンサーが広告予算をこの時期に切り替えるためです。この時期に合わせてCMを放送したいという企業が、どのくらいの値段をCMに投資するのか、どの時期にどのようなCMを流すのかということを決めます。編成はこうした情報を基に、担当営業やCMを差配する業務部などと調整を重ねていきます。

 「番組改編」に当たっては、各番組の視聴率を中心に、同じ時間帯の他局の番組の動向などを調べ、それぞれの時間枠が現状の番組で良いのか、存続させるべきか、内容や出演者を変更すべきかなどについて検討していきます。もちろん、番組を変更する場合には、新たな番組の企画や立案に着手しますが、外部の番組制作プロダクションの企画に加え、近年は広告会社からの持ち込み企画も増えていて、必ずしも局員のプロデューサーやディレクターが企画や立案を全面的に担うとは限らなくなっています。

 こうして立ちあがる新番組の企画は、制作予算やスポンサーの意向はもちろん、放送回数や具体的な内容などについて、精査を重ねます。会議には編成担当者をはじめ、広告会社や制作プロデューサー、さらには構成作家や脚本家たちが参加し、何回も話し合いを繰り返して、企画の内容を詰めていきます。

変わりつつある役割と「次の一手」

  黎明期のテレビ局のビジネスモデルは、番組を提供するスポンサーからの収入に拠る「タイムセールス」が一般的でした。その後、フィルムからVTRへの移行をはじめとした放送技術の進歩などで、番組と番組の合間に流す「スポットCM」が稼ぎ頭に成長し、昭和の末には、スポットで稼いだ収入を番組制作費へ回すビジネスモデルが確立しました。視聴率が上がれば、当然、スポンサーもつきやすくなり、その分、番組制作費を増やすことができるので、更に面白い番組を作っていけるというのが、今でもテレビ局経営の根幹です。

 その一方で、平成以降、インターネットやBS、CS、データ放送など、多くのマルチメディアが出現し、地上波番組の中にも、さまざまなメディアと連動する番組企画が生まれてきています。データ放送でのクイズをはじめ、スポーツ中継を地上波の番組終了と同時に、BSへリレー誘導するなど、お馴染みのものも多いでしょう。中でも局のアナウンサーが、YouTubeやSNSなどで、スピンオフ(派生企画)を発信するコンテンツは、今やローカル局でも当たり前になってきています。地上波の収入が伸び悩む中、新たなメディアに活路を見出そうとするのは必然でしょう。編成には地上波という柱に縋らない敏感なアンテナが必要とされています。

 また、「Tver」で、在京キー局のリアルタイム配信がスタートした中、これまでどちらかといえば、在京キー局の意向をベースにしてきたローカル局の編成も、地域独自の番組や企画を積極的に売り出していく必要があるでしょう。過疎化で地域経済が厳しくなっても、ローカルに伝わる文化や情報を遺すことも、地方局の役割の一つだからです。編成はその先兵といえます。在京キー局、地方局を問わず、テレビを取り巻く環境の厳しさが続く中、どんなビジネスアイデアが有効なのか…。各局の編成に問われる「次の一手」が、局ひいては業界全体の生殺与奪につながってきそうです。

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 石川 淳