どんな業界の職場にも、働きやすい所と働きにくい所があります。その要因の1つが人間関係、つまりコミュニケーションに関わることです。
人はコミュニケーションをとりながら生活する、社会性を持った生き物です。仕事をする上でも、対人関係が非常に重要なことは言うまでもないでしょう。
映像業界はやや特殊な世界ですが、現場で働く時にはやはり多くの人と関わることになります。その中でこの人とはもう一度一緒に仕事がしたい、と思える人に出会えると仕事そのものが楽しくなります。「もう一度仕事したい人」について考えてみましょう。
仕事はコミュニケーションから始まる
まずは一般的な仕事の観点から、一緒にいて働きやすい人について考えてみます。コミュニケーションをとることが上手な人は、周囲と良好な関係を築くことも上手です。
仕事上のコミュニケーションは主に会話や対話ですが、では話題が豊富で饒舌な人だけがコミュニケーション上手かと言えば、そうとは限りません。口数が少なくても、なぜか周囲に慕われて頼られる人だって少なくないのです。
コミュニケーションがうまい人は、相手の話を上手に聞ける人だとも言われます。話しかけても満足に反応しない人や、一方的に自分の言いたいことをぶつけてくる人は、そこに気づかないとコミュニケーションの対象から距離を置かれてしまいます。
たとえ多くを語らない人でも、こちら側の話をしっかりと聞いてくれて、何ともいいタイミングで笑顔など見せてくれると、話す側としてもうれしくなります。
挨拶した時にニコッとして応えてくれる、それだけで人間関係はかなりスムーズになるのです。
仕事には人柄が表れる
映像制作の現場にも多くのスタッフが関わります。しかも事務職や接客業などに比べると、専門的なスキルを持ったスタッフが多く集まる業種です。
撮影クルーを編成したり、大規模なイベント運営に携わったりすると、それぞれに違った技術を持ったスタッフが集まって1つの仕事をこなします。
どのスタッフも自分の仕事で忙しいわけですが、そんな中で他のスタッフを気遣って、さりげなくサポートしてくれる人がいると、周囲の人たちも仕事がしやすくなります。
現場で指揮を執る立場の人でも、たとえ仕事に関しては厳しくても、スタッフをねぎらう気持ちがあるだけで、現場の雰囲気は非常に良くなります。
現場が忙しいと自分の仕事で手いっぱいになるはずなのに、それを顔に出さず常に自然体で周囲に配慮できる人は、現場の場数をこなし、雰囲気をつかむスキルに長けているといえます。こういうタイプの人とは、もう一度仕事がしたいと思うものです。
頼れる人とは仕事がしやすい
ロケでは仕事の規模にもよりますが、複数のカメラマンと音声スタッフ、その他サポートスタッフなどで結構な大所帯になります。そこにタレントやレポーターが加わると、さらにクルーは大きくなります。
こうしたスタッフが各自バラバラに仕事をしていては、いつまで経っても仕事は終わりません。そこで登場するのが、クルーを一つにまとめて指揮を執る現場監督、つまりディレクターです。
ディレクターの仕事はカメラマンのように具体的ではありませんが、この人が頼れる人かどうかで現場の流れは一変します。ディレクターは撮影の進行を常に見ながら、各スタッフに適切な指示を与えます。またロケ地でのさまざまな手配が滞らないように、事前に準備した上で、当日も手配通りに進行を管理しなければなりません。
そしてディレクターの最も重要な役割は、クルー全体に安心感を与えることです。スタッフの立場からすると、迷った時にはディレクターに聞けばすぐに指示が返ってくる。この安心感がある現場では当然良い仕事ができます。
また、イベントの現場では主催者と撮影クルーをつなぐポジションに、エージェントが入る場合があります。イベント現場ではこの人がキーパーソンです。
通常現場では、スタッフが直接主催者側に進行を確認することはありません。また進行上のトラブルがあった場合など、スタッフが頼りにするのがエージェントです。この人が落ち着いて的確な指示を出してくれれば、トラブルも無事回避できます。逆にエージェントも一緒にパニック状態に陥ってしまうと、もう誰もトラブルを収拾できる人はいません。
このように、さまざまな人々が集まって1つの仕事を進める場合、ディレクターやエージェントのように、全体を指揮・管理する立場の人が頼れる人であれば、周囲のスタッフは安心して仕事ができます。
安心感が得られてしかも頼れる人も、また一緒に仕事がしたくなる人です。
仕事ができる人が現場を変える
今度はスタッフの一員としての立場から考えてみましょう。撮影現場にはさまざまな分野のプロが集まりますが、「できる人」との仕事は非常に楽しくスムーズです。
仕事ができる人は常に気配りができていて、周囲がよく見えています。また自分の担当以外の仕事に対しても、一緒に考えてアイデアを提案することができます。
例えばカメラマンは、ディレクターの指示通りにカメラを操作するのは当然ですが、カメラマン自身でも撮影アングルやカット割りを提案しながら、ディレクターの思考を先回りできると、仕事のレベルがぐんと上がります。
ディレクターからすると、自分の意思を大まかに伝えるだけで、あとはカメラマンが望み通りの映像を撮影してくれるので、クルー全体を指揮するという自分の仕事に集中できます。これが常に指示待ちでは、仕事の効率は大幅に低下します。
撮影のサポートスタッフでも、仕事ができる人が揃っていると、全体の仕事が非常にうまく回るようになります。
カメラマンが位置決めをしたら、絶妙なタイミングでそこに三脚を立てる。このリズムが揃うだけで、カメラマンだけでなく全体的に仕事のテンポがアップします。
このようにスタッフはそれぞれに立場が違いますが、どんなポジションにあっても、そこでの仕事を上手にこなせる人は、周囲の人から信頼されます。
またあの人と仕事がしたい、そう思われる人は仕事ができる人なのです。
もう一度撮影したい人
撮影現場にいるのはスタッフだけではありません。取材対象者にも、もう一度仕事をしたいと思わせてくれる人がいます。
取材対象者が我々撮影スタッフに対して敬意をはらってくれ、質問した内容について1つ1つ実に丁寧に答えてくれました。その経験に基づいた話は面白く、取材する側も聴き入ってしまうほどです。
さらに取材した講演会では、我々スタッフもすっかりファンの一人として存分に楽しませてもらいました。スタッフの誰もが、「もう一度仕事したい人」と感じたことでしょう。
もう一度仕事がしたい人は、自分が目標にできる人
仕事の中で下の立場から上の立場を見た時に、もう一度仕事がしたいと感じる相手とは、その人にとって目標にできる人ではないでしょうか。
仕事ができる人や頼れる人は、「あんな人になってみたい」と思わせる何かを持っています。
逆に人に指示をする立場からすると、周囲に気を配り相手の先回りをして動ける人は、また一緒に仕事をしたい相手になるでしょう。
人はコミュニケーションを必要とする社会性を持った生き物です。結局もう一度仕事したい人とは、一緒にいて安心できて、信頼し合える人なのかもしれません
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介