欧米に比べればまだ緩やかではありますが、日本国内でもさまざまな業界でテレワークという新しい働き方が広がっています。しかし映像業界に限って言えば、ひと昔前までテレワークは選択肢の外。なぜなら取材には綿密な段取りと機動性が求められ、扱う映像はデータ量が多すぎて、離れた場所どうしでのやりとりには大きな制限がつきまとったからです。ところが近年のテクノロジーの進歩により、大量のデータを瞬時に処理できるようになったため、映像業界でも場所に縛られない働き方が可能になりました。ここではその一つとして、映像業界でも広がりつつあるテレワークについて紹介します。
映像業界とは相性の良いテレワーク
映像制作業にはざっと指を折って数えても、企画・打ち合わせ・シナリオ作成・ロケハン・取材撮影・編集など、さまざまな業務があります。一つのプロジェクトを仕上げるまでにも、非常に多くのステップが必要な仕事です。
スタジオか屋外かの違いはあっても、取材や撮影は必ず現場で対象物を前に行わなければなりません。また編集作業でも本来であれば、専用のスタジオで緻密な作業を繰り返すことになります。
しかし現代の映像制作においてはほぼすべての工程が、必ずコンピューターを介して行われます。つまりデジタルデータとして扱われるので、現在の技術を活用すれば、業務関係者の中でデータの共有が容易に行えるということです。
そのため打ち合わせや取材・撮影など現場での業務を除けば、場所を問わずに具体的な作業を進めることも可能です。場合によっては現場での作業まで含めてデータでやりとりすることで、それぞれのスタッフが別々の場所で分業体制を組むこともできます。
では映像制作業はなぜテレワークと相性が良いのでしょうか?その要因を考えてみると以下のようなポイントが挙げられるでしょう。
・進化を続けるICT(情報通信技術)を有効に活用できる。
・作業のほとんどをコンピューター上で完結できる。
・多様でコストパフォーマンスの良い映像制作ソフトが充実。
・大容量データ処理の技術が進化。
・ネット配信など多様化した映像メディア。
これらの技術的進化によって、デジタルデータを扱う映像制作の業界では、テレワークの広がりを受け入れやすい状況が整ったのです。さらに今後の情報通信技術の発展により、テレワークの流れが加速することも考えられます。
5Gの普及がテレワーク化を加速させる
現在日本のICT環境は、「5G(第5世代移動通信システム)」の移行が決まっており、すでに5G対応のデータ通信がはじまっています。
5Gではデータ通信容量が4.1Gbpsと、これまでの技術に比べて圧倒的に効率的なデータ通信が可能になります。特徴としては「高速・大容量」「低遅延」「多端末接続」などが挙げられ、社会のあらゆる分野でICTの普及に貢献するでしょう。
映像データに関しても、4Kや8Kといった超高画質のデータを、別々な場所で充分に余裕を持ってやりとりすることができます。これは今まで使っていなかった、高周波帯を用いて初めて可能になることで、大容量データへの対応だけでなく、同時に多くのデータを転送することも実現します。
また低遅延という特性から、必要なデータを瞬時にストレスなく送受信することも可能になり、撮影した映像の送信や、編集スタッフ間でのデータのやりとりなどが、5Gを使って容易に行えるようになるでしょう。
現在は携帯電話から5G化が始まっているようですが、今後ICTを利用した端末や各種機器にまで普及すれば、間違いなくテレワークの広がりが加速すると考えられます。
テレワークでも可能な最新の映像制作テクノロジー
映像編集ソフトにかけては老舗とも言えるAdobeでは、ひと足早く映像制作ツールをクラウド化。現在「Premiere Pro」「Photoshop」「After Effects」など、20以上のアプリケーションをクラウド上に展開しています。
クラウド化によってデスクトップでの作業環境から、モバイル端末、スマートフォンなどの、多様な機器を使っての映像制作が可能になりました。映像データもクラウド上のストレージに格納できるため、手元に大容量の記憶メディアを準備する必要もありません。
クラウド型の編集ソフトを使えば、複数のスタッフ間でデータや編集作業を共有することができます。分業によってよりクオリティの高い作品を仕上げることも可能です。
また映像以外の企画書やシナリオなども、現在はすべてクラウド上で共有することができます。クライアントとの打ち合わせから始まって、実際に映像制作をスタートするまで、すべての作業をテレワークで行うことも難しくありません。
さらに撮影素材をそのままクラウドで共有し、スタッフ間で同時に編集を進めれば、映像制作過程のほとんどはテレワークで対応可能になるでしょう。もちろん5Gが実現すれば、撮影素材をクラウド化せず、瞬時に転送することもできるようになります。
このように現在進化を続ける映像制作テクノロジーを活用すれば、ハイクオリティの映像制作プロジェクトでも、充分にテレワークでの対応が可能になるのです。
正社員から業務委託まで、働き方はいろいろ
テレワークとは在宅勤務だけを意味する言葉ではありません。今度は働き方の面からテレワークについて考えてみましょう。
日本でも働き方改革の浸透により、毎日職場に出勤する以外の勤務形態を選べるようになってきました。社員の場合でも会社のオフィス以外に、自宅やサテライトオフィス、機材を持ち歩いてのモバイルワークなどが可能です。
ICTの進歩によって、映像業界ではほとんどすべての作業がネットワーク上で可能になりました。そのためスタッフの担当業務に合わせて、テレワークの形態を自由に選択することもできます。
例えば撮影スタッフは、ディレクターからの撮影計画に沿って現場で作業を行い、撮影後の映像データをすぐにディレクターや編集者と共有。編集スタッフもタイムロスなく、映像制作を始めることができます。
大きなプロジェクトになれば、スタッフにも専門的な映像加工技術が求められますが、それもクラウド化で作業環境を共有することにより、複数のスタッフ間で効率的に作業を進められるようになります。
その結果映像業界でも、正社員から業務委託やフリーランスまで、さまざまな働き方を選べるようになります。もちろん勤務場所を選ばないテレワークも可能です。
フリーランスや業務委託向けの求人サイトでも、動画撮影から動画編集、また映像プロデューサーやディレクターまで幅広い募集があります。他にもクライアントと技術者とのマッチングに特化した、クラウドソーシングで検索しても映像関連の案件は豊富です。
こうした現状から考えても今後の映像制作業界では、今までのような形にとらわれない、自由な働き方がますます増えるのではないでしょうか。
映像制作者はテレワークでチャンスを広げるべき
これからの社会は大きな変革期を迎えると言われています。その変化は主にICTをはじめとする技術革新によりもたらされます。同時にこれまでとは違った働き方が増え、さまざまな業界でテレワーク化が促進されるでしょう。
映像メディアが多様化する中、映像業界でもさまざまな人材が必要になり、今後優れた映像制作者にとっては、自身のスキルを磨いてさらに仕事の幅を広げるチャンスが訪れるはずです。
これから映像制作の世界を目指す人も、より恵まれた仕事の環境を求める経験者の人も、確かな技術を身につけて自分に合った働き方を見つけましょう。そのチャンスを与えてくれるのが、テレワークという働き方かもしれません。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 進也