皆さんは「オウンドメディア」という言葉を耳にしたことがありますか?「オウンドメディア」(Owned Media)は、自社が所有する(Owned)メディアを意味し、ホームページやブログ、SNSアカウントなどが該当します。加えて、企業が運営するウェブマガジンやブログを「オウンドメディア」と呼ぶ場合もあります。最近、「オウンドメディア」を利用したマーケティングに取り組む企業が増えるにつれ、ウェブ制作会社や広告会社の参入も増えていて、まさに「オウンドメディア大流行」と言っても過言ではありません。今回は「オウンドメディア」にスポットを当て、流行の背景や具体的なメリット、さらには留意点について、探っていきます
流行の背景
各企業が「自前」で広告媒体を確保しようとする理由には、従来の広告手法が通用しなくなっているという背景があります。インターネットのバナー広告は、2000年頃には10%程度のクリック率がありましたが、今では大きく下回っています。これは、消費者が広告を無視したり、広告を見ても反応しなかったりするという現象が起きているといえます。つまり、従来の集客施策の中心であった広告が機能しなくなったので、「オウンドメディア」の必要性が高まっているというわけです。
ここに現れたのが動画の視聴環境の変化です。動画投稿サイトやSNSなど、プラットフォームの拡大が後押ししました。もちろん、テキストに比べれば、情報は圧倒的に伝わりやすいですし、電波料や制作費がかかるテレビCMより安くて気軽に制作できることも「オウンドメディア」による動画マーケティング注目の要因といえます。
さらにテレビCMにないメリットとして、コンテンツを蓄積すると自然検索での流入が増えて行く点が挙げられます。テレビCMをはじめとした従来の広告は、発信を止めると、売上が落ちますが、「オウンドメディア」は、ストック効果があるので、広告と違って更新を止めても、アクセスが維持できます。つまり過去の記事であっても、検索やSNS経由で閲覧されますから、広告宣伝費の削減とコンテンツ資産の蓄積という一石二鳥の効果が見込めます。
各メディアの特性を効果的に活用する
「オウンドメディア」に関連して「トリプルメディア」という言葉があります。
これは「オウンドメディア」に加え、「広告などを出稿する他社サイト」を指す「ペイドメディア」さらには「FacebookやTwitter、掲示板をはじめとするCGM」など、自社からの情報を発信できるソーシャルメディアを指す「アーンドメディア」の3つを組み合わせて戦略を実行に移すことです。つまり、メディアミックスで、幅広いユーザー層の接触を呼び込むことが可能になります。
この3つのメディアにはそれぞれ、長所と短所があります。まず「オウンドメディア」は、自社のメディアとして永く利用できますが、育てるのに時間がかかります。これに対して「ペイドメディア」は、即効性はありますが、消費者への説得力が相対的に弱くなる傾向があります。さらに「アーンドメディア」は、SNSを使うので、良い口コミが起こせれば信用度が増し、メリットがとても大きくなる反面、炎上した場合などは、企業側でのコントロールが難しくなります。つまり、それぞれの強みと弱みを把握した上で、各メディアを組み合わせて使うのが肝要といえるでしょう。
こうして「オウンドメディア」に役に立つ記事を蓄積すれば、視聴者や読者が繰り返し訪問します。彼らに「役に立つ記事=情報」を提供することで、会社自体の信用度が上がり、ブランドの構築につながっていきます。
「オウンドメディア」で拡がる可能性
このように「オウンドメディア」は各企業にとって、垂涎の存在になっていますが、では、どういった点に留意して、活用していけばよいのでしょうか。
まず、サイト名やサイトコンセプトを決める際、読み手である「ペルソナ(persona)」をしっかり設定しておく必要があります。「ペルソナ」とは、サービスや商品を利用する「典型的なユーザー像」を指し、マーケティングでは頻繁に出てくる概念です。具体的には、実際にその人物が実在しているかのように、年齢や性別、居住地、さらには職業や趣味、特技、休日の過ごし方、ライフスタイルといった「リアリティのある詳細な情報」を設定していきます。つまり、どのような人が、何を必要としているのかを明確にしていくと、自然とペルソナ像が固まってきます。
地域戦略も大きく変わってきます。テレビCMや新聞広告なら、放送や配布地域が限定的ですが、「オウンドメディア」は自社媒体ですから、幅広い地域をターゲットにビジネスを展開することが可能になります。東京の会社が地方のメーカーと取引をしたり、逆に地方の企業が東京の企業と取引をしたりと、ビジネスにおけるエリアの障壁は格段に下がってきます。もちろん、各国の言語版を用意できれば、海外へ向けての訴求も楽になるでしょう。
「動画」導入とスマホ前提の制作スタイル
これまでご紹介してきた事例からもわかるように、「オウンドメディア」は従来の広告手法と違い、「予算」や「知名度」がなくても、誰でも始めることができます。ユーザーの役に立つ情報を発信することで成果が得られることは論を俟ちませんが、とりわけ、文章だけでは伝わりづらいものを分かりやすく伝える「動画コンテンツ」の導入は次世代へ訴求するマーケティング手法として、ポピュラーになっています。つまり、これから新規参入を考えるなら、動画コンテンツの「事実上一択」と考えてよいでしょう。従来は商品の使い方などのハウツー系動画がメインでしたが、最近はリアル感を意識してかインタビュー動画を載せたり、YouTuberとコラボレーションして、ブレイクを狙った動画を仕上げたりするなど、視聴者の欲求に合わせて制作手法も変化してきています。
ここに拍車をかけているのが、スマートフォンの爆発的な普及です。数年前に比べて、通信環境が劇的に改善した今、スマホでいつでもどこでも動画を見るのが当たり前になっています。「オウンドメディア」で動画を扱う場合も、スマホで閲覧されることが前提と考えるべきでしょう。
スマホでの視聴を前提に考えれば、なるべく短い動画にした方が見やすいですし、外出先で音声をオフにして、動画を見るユーザーのためにも、字幕は不可欠な要素になってきます。これは、「オウンドメディア」に限らず「YouTubeやSNSなど幅広く動画を載せる」というように、プラットフォームを拡げて「費用対効果を高める戦略」を立てるべきです。
とはいえ、いきなり一般企業が「動画コンテンツ」を作ろうとしても、クオリティや時間などの問題が生じる可能性が大ですし、機材の購入や撮影・編集に割かれる人的資源も考えると、他の業務の停滞につながりかねません。そこで制作会社をはじめとするプロへの相談を選択肢に加えてみては如何でしょう。動画制作の経験は豊富ですし、機材や撮影・編集面での心配も不要ですから、他の業務への影響もありません。もちろん業界によって向き・不向きがありますし、予算の兼ね合いも絡んできますが、「オウンドメディア」への動画コンテンツ導入をお考えの際は、ぜひ制作会社への相談をお勧めします。
テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人