「アシスタントプロデューサー」と聞いて具体的にどのような仕事をするのか、イメージが湧かない方もいるかもしれません。事実、在京キー局以外では、あまり馴染みがない職種で、ローカル局ではディレクターや制作デスクが兼務したり、場合によっては、庶務が肩代わりしたりするケースもあります。
その一方で、100人からのスタッフがひしめく規模の大きな番組では、プロデューサーや制作現場をサポートする重要かつ魅力的なポジションです。こうした現場では、アシスタントプロデューサーなしでは、現場そのもののハンドリングが覚束なくなるでしょう。
今回は制作現場を支える「究極の何でも屋」アシスタントプロデューサーにスポットを当て、業務の内容や求められる人材像、さらにはちょっと変わったキャリア形成の現状などについて、探っていきます。
アシスタントプロデューサーの分掌範囲
アシスタントプロデューサーは「AP」とも言われ、番組のプロデューサーや制作全体をサポートする役割を担います。番組制作の過程で、最初に決めておかなければいけないポジションといっていいでしょう。テレビ局や番組制作会社に所属しながら、番組の進行管理や予算管理、出演交渉などをするのが主な仕事です。言い換えれば、プロデューサー側とディレクターをはじめとする演出側をスムーズにつなぐ、架け橋のような役割を担っています。
番組制作の前よりも、むしろ番組がスタートしてからの方が発生する業務が多くなります。例を挙げれば、出演者の出演交渉に始まり、番組全体のスケジュール管理や撮影許可を含めた取材先への交渉が、まずは第一歩です。それが決まると、今度は番組やロケの予算管理、さらには技術スタッフや撮影機材などの手配が待っています。いざ制作が始まれば、ロケや撮影のサポートをはじめ、使用素材の権利確認や許可取りに至るまで多岐にわたります。場合によっては、番組制作に携わるスタッフのフォローなど、プロジェクトが円滑に進むよう、細かい気配りを求められることも少なくありません。全体をリードする役割があるプロデューサーと比較すると、幅広く細やかな調整業務をこなすことがアシスタントプロデューサーの役割といえます。
ADとの違い
「アシスタント」と名がつくため、アシスタントプロデューサーはよくアシスタントディレクターと比較されます。もちろん、この両者は関連こそ密接ですが、業務内容や組織での立ち位置が大きく異なります。まず、アシスタントディレクターは、多くの場合、テレビ番組の制作現場で最初に就くポジションですが、アシスタントプロデューサーは一概にスタートポジションとは言えません。もちろん、新卒で配属される人もいますが、アシスタントディレクターやディレクターを経てアシスタントプロデューサーになる人、さらには制作デスクから異動する人もいます。
こういう配属になる理由は、アシスタントプロデューサーの業務が多岐にわたるからで、テレビ番組の制作に関わった経験がある方が仕事をしやすいからです。こうした事情から、アシスタントディレクターは若手中心なのに対して、アシスタントプロデューサーは必ずしも若手に限りません。現業面では、金銭面の管理が大きなウェイトを占める反面、編集作業にはあまり関わらないこともアシスタントディレクターとの違いと言えるでしょう。
求められる人材像
実際、アシスタントプロデューサーとして活躍しているのは、20代の若手から50代のベテランまで幅広い年齢層です。もちろん男女で極端な人数の差はありませんが、先述のように、仕事内容がミクロなため、向き不向きでいえば、細やかなところに気がつきやすい女性の方が長じているといえるでしょう。加えて、近年は女性をターゲットにした番組も多く、女性が必要とされる現場が増えてきていることも、アシスタントプロデューサーに女性の進出が進んでいる一因になっています。
また、これは男女を問いませんが、スケジュール管理や予算管理を担う業務ですから、管理能力に長けている人に向いた職種ともいえます。そして、何よりも重要なのが、コミュニケーション能力です。この仕事は、プロデューサーやディレクター、アシスタントディレクターといった制作サイドをはじめ、照明や音響などのスタッフ、演出家、さらには出演するタレントなど、実に多くの人と関わります。番組制作をスムーズに進めるためにも、先回りをして考えた上で、気遣うことも求められてきます。こうした事情から、高いコミュニケーション能力も必要なことは論を俟ちません。
このように、豊富な現場経験を活かし、プロデューサーと現場との調整役を担いながら、ときには、若いスタッフの相談相手になるなど、数多のアシスタントディレクターをまとめて引っ張っていくいわば「寮母的役割」も求められています。キャリアを積んできたアシスタントディレクターが、アシスタントプロデューサーにキャリアチェンジするという人が多いのはこうした事情も背景にあります。
ちょっと変わった「キャリア形成」
アシスタントプロデューサーの職場は主に、在京キー局や準キー局、衛星放送、ケーブルテレビ局などのテレビ局や制作会社です。一方で、ローカル局の場合、大都市圏を除けば、ディレクターや庶務担当が業務を担うケースが多いため、活躍の場は意外に少ないです。ちょっと他の職種と変わっているのが、アシスタントプロデューサーの中には、プロデューサーになることを目指していない人が散見されるということです。
もちろん、能力が評価されてプロデューサーに昇格するケースもありますが、あえて「サポートに徹したい」と考えて、「プロデューサー」への昇格に名乗りを上げず、アシスタントプロデューサーとしての“プロ”を目指す人もいます。フリーランスとして、いくつかの番組を掛け持ちして活躍するのはその典型と言えるでしょう。
加えて、女性が多い理由にもつながってきますが、アシスタントプロデューサーは比較的、自分で業務の調整が出来ます。これが女性として、仕事のキャリアが築きやすい側面につながっています。つまり仕事のポジションを変えないまま、スキルアップが可能で、自身の能力を安定的に磨けます。
このように、テレビ局や制作会社、番組による違いはあるものの、裏方として番組制作全体をフォローしていくのがアシスタントプロデューサーの仕事であり、最大の醍醐味といっていいでしょう。特に放送業界は、急なトラブルなど、予測不能な事態が起こることもありますが、その時にアシスタントディレクター時代の経験を糧に、臨機応変に対応できる力がモノを言います。
時にはアシスタントディレクターのように使い走りを買って出る反面、アシスタントディレクターよりも対外的な交渉場面に接することも多く、外見も内面もきちんとしていなければいけないアシスタントプロデューサー。究極の「何でも屋」は、きょうも制作現場の「肝っ玉母さん」として、辣腕を振るっています。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太