自宅に居ながら、美術館や博物館を訪れているかのような疑似体験ができるのをご存知でしょうか?オンラインコンテンツに力を入れ、館内の様子やギャラリートークなどを自前のWebサイトやYouTube動画で配信する美術館や博物館が増えています。
これまで敷居が高いと思われていた芸術が、オンラインを通して飛躍的に身近になり、今後、行ってみたい場所へと変わってきていると言われています。展覧会の会場風景やコレクションの紹介をはじめ、パフォーマンスの記録や子供と一緒に楽しめる動画など、展示要素以外のアトラクションも盛り沢山です。
従来は、高価な画集や図鑑などでしか作品鑑賞できませんでしたが、オンライン配信することで、コレクションの概要をはじめ、研究員や学芸員の解説もつくので、より理解が深まります。今回は各美術館や博物館など、オンラインコンテンツの魅力や楽しみ方などをご紹介しながら、今後の展開についても考察を深めていきます。
オンライン美術館・博物館の魅力
オンライン美術館や博物館の魅力で最初に思い浮かぶのは「鑑賞も出展も無料」なことではないでしょうか。鑑賞だと一人当たり数千円の入場料が常識ですが、「誰でも、いつでも、無料でアートを楽しめる」をコンセプトに、有名画家の作品から一般のアーティスト、学生などの作品をオンライン上で展示しているサイトもあります。また、鑑賞だけでなく、自分の個展を開くこともできますから、作品を観る側はもちろん、作る側として参加したい人にもおすすめです。
これらを実現可能にしたのは、ネット環境。ネットさえあれば、時間や住所を問わず、視聴できることも、特に地方の美術ファンにとっては、大きなアドバンテージです。当然、海外の美術館や博物館も24時間視聴可能ですから、時間や金銭的に厳しい美術ファンには朗報です。また、人気展につきものな「人混みや人目」を気にせず、気軽にアートに触れられるのも、オンラインコンテンツの強みの一つといっていいでしょう。
オンラインならではのコンテンツも充実
鑑賞のオンライン化は、主催する美術館や博物館にも考え方の変化をもたらしています。具体的には、展示以外の「スピンオフ」の強化です。最早、スタンダードなコンテンツと化している研究員コンダクトのギャラリーツアーや、コレクションの解説を楽しむことができるギャラリートークをはじめ、手話案内の配信など、より多くの美術ファンの獲得に力を入れています。ライブ配信したコンテンツは、当然、アーカイブにして公開し、リアルタイムで視聴できなかった場合でも、楽しめるよう配慮されています。
そのコンテンツの内容も、工夫を凝らしたものが多くなっています。例えば、さまざまなアーティストや作品を、歴史や政治、社会的な背景とともに理解していく「ラーニングプログラム」の記録映像を制作しているところもありますし、展示とは視点を変えて、スタッフの仕事を紹介しながら、館内の「裏側」を知ることができたりする動画も出始めています。最近はVRや360度動画などを制作する博物館も現れ、まさに美術館・博物館同士がコンテンツの充実ぶりを競い合っています。
さらに新たなビジネスの萌芽として注目を集めているのが、Web上でのミュージアムショップです。仮に様々な事情から、休館しなければならなくなった場合、「展覧会」だけではなく、展覧会の図録やオリジナルグッズを扱うミュージアムショップにも、多大なダメージが及びます。そこに「救世主」として注目されるようになったのが、Web上でのミュージアムショップです。売り場の閉店で、行き場を失くした展覧会用のカタログやオリジナル商品の販路をEコマースで代替しようという試みが出始めました。
見せ方の工夫
展覧会のオンライン化は、美術館や博物館だけでなく、いわゆる「画廊」なども熱い視線を注いでいます。画像鑑賞型のWeb展覧会は、固定客以外にも、新規のお客さんを幅広く集めたいギャラリーが目をつけました。これまでにもWebカタログで作品を紹介することはありましたが、画像を大きくすることで、高額なアート作品を安心して買ってもらおうという新たなビジネス戦略です。作品は当然、できるだけ、「Web画面越しに実物を見ているような」感覚に近い見せ方をする必要があります。例えば、陶磁器なら様々な角度から撮影したカットが欲しいですし、絵画ならズームアップして、細部まで吟味できるような仕掛けが必要です。先述のように、作家や学芸員が作品の背景やコンセプトを解説しているコンテンツも求められます。
さらに従来、リアルで開催されていたトークイベントにもオンライン化による変化が始まっています。それはzoomやGoogle meet、Microsoft Teamsといった、多くの人が同時接続可能な「Web会議システム」を活用したトークイベントです。そこまで大規模ではなくても、参加者を限ったイベントの場合は、インスタライブやツイキャスといったSNSの出番も増えてきました。トークイベントをWeb型へ切り替えた場合、参加者の居住地を選ばないことに加え、収容人数に上限がないことも大きなメリットです。リアルでイベントを開く場合、最大限、集客努力を極めても、仕事が終わった平日夜間の開催ならば、せいぜい100名くらいが関の山でした。しかし、トークイベントをWeb型へ切り替えれば、100人はおろか300人、500人と、全国各地からあっという間に参加者が集まります。リアル型のイベントでは、席でじっとしていなければなりませんが、Web型なら、移動しながらでも参加できますし、家事や仕事しながらの「ながら視聴」だって可能です。主催者側にしても、席を並べるなどの労力が不要になり、その分、展示の質の向上に力を注げます。
もちろん、リアル型のトークイベントに比べれば、会場内の盛り上がりや一体感に乏しい部分はありますし、高解像度を必要とする鮮明な画像や音質は、5Gが普及まで我慢の必要がありますが、それでも、より多くの人がイベントに参加できますし、そこから視聴者同士の交流も生まれる可能性も期待大です。
これまで、ご紹介してきたオンライン展覧会を実現するには、やはり卓越したカメラワークや編集テクニックが不可欠になりますが、これを美術館や博物館のスタッフに求めるのは、なかなかハードルが高いです。そこで、映像制作会社への依頼を判断の選択肢に加えてみては如何でしょうか?プロならば、撮影や編集のノウハウはもちろん、サイトの運用まで一括して担うことが可能です。何よりも浮いた労力を「展示や解説の充実」に充てれば、より質の高いオンラインイベントの開催に漕ぎつけるでしょう。アドバイスだけでも一般の人たちには、かなり参考になるはずです。
アート鑑賞を楽しむ上で、インターネットが担う比重は大きくなっています。様々な形で、急速な発展を遂げているオンライン美術館や博物館。オンライン上での情報コンテンツやサービスをうまく取り入れることで、観客が豊かなアート生活を送れれば、主催者側にとっても奇貨になり得るのではないでしょうか。
テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人