テレビ局の主な収益源はテレビCMだけではありません。イベント事業など、放送外収入もありますが、その内の1つに、キー局がローカル局に番組を卸す「番組販売(番販)」があります。例えば、地方の場合、地元のテレビ局が、本来の系列以外の局から仕入れた番組を日中や深夜に放送しているケースは見覚えのある方も多いと思います。また、在京キー局を介さず、ローカル局間で番組を売買したり、系列局が在京キー局を通じて自局以外の系列局に番組を販売したりする場合もあります。さらに、最近では番組の演出や脚本をまるごと海外の局へ販売するフォーマット販売も事業の柱に成長しています。
今回は番組販売の現状までをご紹介しながら、今後の展開を考えていきます。
「原則は独自」のローカル局編成
まず、番組販売について触れる前に、編成面から見たローカル局と在京キー局の関係についておさらいしましょう。首都圏以外で暮らしたことがない人の中には、「ローカル局は、ニュース以外はCMも含めて東京発の番組を流しているだけ」と勘違いしている例も散見されますが、放送法では一定の時間、地域のための自主制作番組を放送することを定めています。これに抵触した場合、罰則規定のない放送法の代わりに、電波法違反に問われ、最悪の場合、放送免許が剥奪されることもあります。ですから、ローカル局は在京キー局と同じ番組を100%流しているわけではありません。例えば、日中の午後2時から5時までや深夜12時以降の枠は独自編成しているローカル局が多いです。このように、ゴールデンタイムなど、全ての系列局が同じ番組を一斉に放送する枠を「ネット枠」、 系列局が独自に編成できる枠を「ローカル枠」といいます。最近では、定期的にゴールデンタイムなどの「目玉商品の枠」をローカル局に開放し、系列局全体の制作力の強化を図る系列も増えてきました。ちなみに厳密な「キー局」の定義は「番組を制作し、発信している(キーになる)局」です。したがって在阪でも在名でも、番組を作って、系列局に販売していれば「キー局」と言えます。しかし、東京発の番組が全体の7割以上を占める現状では、キー局は在京局につく冠の代名詞になっています。また「準キー局」という本来の意味とは、離れた用語も生まれました。なお、編成用語では制作・販売ともにキー局が担当する枠を「NN」(ネット・トゥ・ネット)制作はキー局だが、販売は各ローカル局に任せる枠を「NL」(ネット・トゥ・ローカル)と呼びます。番組は全国ネットの放送なのに、スポンサーが地元の有力企業だったりするケースがこれに当たります。
番組販売のあれこれ
この「ローカル編成枠」に放送できる番組を販売するのが「番販」です。「商品」としては、ローカル局制作の独自番組もあれば、過去に在京局や在阪局で放送済のスポーツ・情報・バラエティ・ドラマ・アニメといった番組を、全国の放送局へ販売する場合もあります。系列局がなく、系列キー局の番組が見られない地域のテレビ局をはじめ、最近は「BS・CS局」や「独立U局」、さらには「ケーブルテレビ」等へも販路を拡げています。さらには広告会社からの引き合いで、スポンサーが制作した「テレショップ」を放送し、売り上げ調整に資する局もあります。
主力化する「フォーマット販売」
そして、ここにきて近年、「フォーマット販売」が活性化し始めています。これは、海外のテレビ局が「日本の番組を自国用にリメークして放送したい」という引き合いがあった場合に、その構成や演出方法といった番組制作に必要な「フォーマット」を販売するビジネスです。
フォーマット販売はもともとアメリカのラジオ番組で始まり、テレビ番組にも波及するようになりました。日本でも、海外のテレビ番組のフォーマットを購入して「日本版」として番組制作するのはけっして珍しいことではありませんでした。とはいえ、番組販売ほどのボリュームはなく、80年代以前はせいぜいアメリカがクイズ番組を英語圏の国々へ販売する程度で、小規模にとどまっていました。
このビジネスモデルを日本でも応用できないかと各民放は頭をひねりました。その背景には、当時、アジア諸国を中心に、日本の番組の剽窃や盗作が横行していた深刻な事情があります。こうして、80年代半ばから、アジア諸国向けに、日本の番組フォーマットを販売する事業が始まりました。いわば積極的なフォーマット販売に乗り出すことで「盗作抑止」との一石二鳥を狙ったというわけです。当時「番組企画権」と呼ばれていたこの試みは、世界的に見ても、極めて早く、アジアではほぼ唯一と言っていい「番組フォーマット販売」の先進国になっていきました。
フォーマット販売のメリットは、入手さえすれば、オリジナル局の「お墨付き」になり、仕様書や監修といったノウハウが得られることです。それまではアジア諸国へ番組を「輸出」する場合、過去に放送したソフトそのものに各国の字幕スーパーを付けて販売していました。これをフォーマット販売に切り替えれば、その国のタレントが出演しますから、海外の視聴者にとっては、俄然、親近感が湧きます。その結果、2000年代に入って、盗作疑惑は目に見えて減っていきました。フォーマット販売は、特にバラエティ番組でその効果を如何なく発揮し、クイズ番組から「主役の座」を奪うまでに躍進を遂げています。
喫緊になるフォーマットビジネスの国際化
「Tver」の出現で、国内の放送局間での番組ソフトの販売は頭打ちだといわれています。何せ、放送終了後、間髪入れずにアップロードされますから、地元局で、数か月前の放送を見ることに比べれば、明らかに鮮度が違います。もちろん、民放の少ない県での放送やローカル枠などで過去のドラマやバラエティ番組の再放送のような番組販売は残るでしょう。フォーマット販売はそうした環境の変化の下、収入の柱として期待されていますが、ここで求められるのが、番組を如何に「グローバルブランド」として昇華させていくかです。例えば、世界にフランチャイズ展開しているファストフードの場合、必要に応じてローカライズされる部分もありますが、根幹のアイデンティティやコンセプトはどこでも変わりません。これをテレビ番組に当てはめれば、各国の視聴者嗜好に合わせたローカライズを進める一方で、ブランドの普遍性のためにバイブルや現地版の監修が不可欠だといえます。さらに、ノウハウだけではなく、番組タイトルやロゴなどのブランドもメディアを横断して活用できますし、マーケティング手法として、ゲームやグッズ、アパレルなどの商品化、さらには視聴者参加型のイベントなど、多方面での事業展開がチャンスとして眼前に広がります。
ご案内のように、日本の番組フォーマットの販売には、長い歴史とノウハウの蓄積があります。テレビ先進国としては、すでに爛熟期に入った現在、今後は、番組のブランド価値の向上はもちろん、戦略的なビジネス展開も視野に入れながら、販売に取り組んでいくことが「収入源の柱」に育てる上での「必要十分条件」といえるのではないでしょうか。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 進也