近年、ぶらぶらと散歩しながら、その地域の魅力やグルメを紹介する「街歩き」と呼ばれるジャンルの番組が増えています。毎日、必ずどこかのチャンネルで「街歩き番組」をやっていると言っても過言ではありません。いわゆる「紀行番組」はテレビの黎明期からありましたが、近年はもっとカジュアルなスタイルの番組が主流です。街にスポットを当てる番組や公共交通を乗り継ぐ旅、観光名所の見どころを紹介する番組などは人気で、長寿化している番組も多いです。
今回はこうした「街歩き番組」「カジュアルな旅番組」にスポットを当て、増加の背景やその醍醐味、さらには将来性について考えていきます。
「街歩き番組」増加の背景
いわゆる「街歩き」番組が増え始めたのは、1990年代からです。現在に続く長寿番組は、いずれも90年代初頭から半ばに産声を上げました。それまでにも旅番組はありましたが、海外を中心とした紀行番組か国内をめぐる30分程度の番組が主流でした。ところが90年代を迎え、東京など大都市圏への一極集中に拍車がかかると、これまであまりスポットライトが当たってこなかった近郊の街に注目が集まるようになり、隠れた名物や穴場スポットといった観光資源が人気を集めるようになりました。こうした番組に共通しているのは、いずれも「普段着の街」という視点です。番組では、華やかな繁華街や全国的に有名な観光地を敢えて取り上げず、地元の人たちが慣れ親しんだ商店街や通り、さらには食堂や喫茶店などの紹介にこだわりました。こうした番組では、何よりも地元に住む人たちの素の魅力が演出の大きな柱になります。テレビ慣れしていない分、逆にお約束にとらわれない予想外のリアクションが生まれ、MCの芸人がさらに魅力を引き出す演出法は、視聴者にとって新鮮でした。まさにこれまでの番組にはない「ニッチさ」を狙ったといえます。
街歩き番組の醍醐味とは…
「街歩き」に限りませんが、旅番組の醍醐味は何といっても、行きたかったり、知りたかったりする観光地やお店が紹介されることです。番組を見ることで、旅情が掻き立てられ、旅の動機づけにつながります。また、大都市で暮らす地方出身者にとって、故郷がとり上げられることは、懐かしさとともに、愛郷心の再認識にもつながります。他方、視点を変えて、地方の場合、全国区のテレビに採り上げられることがわかると、現地の人のテンションはかなり上がります。こうした心理効果も手伝って、観光立県、観光立市を目指す自治体の中には、まさに「街ぐるみ」で、ロケ番組の誘致に乗り出すケースも現れました。このように「街歩き番組」は自治体の観光振興という面からも、有力なコンテンツの一つになっています。
日進月歩の演出
2000年代に入ると、「街歩き」の中に路線バスや電車利用を組み込む番組が出始めました。中にはこうした「公共交通機関」の時間的制約を逆手にとって、タイムトライアルの要素を加えるなど、演出はよりゲーム的になっていきます。もともと「街歩き番組」は「ドキュメンタリーの要素を含んだバラエティ番組」とも言え、ハプニングに起因する一種のスリル感も、多くの視聴者を病みつきにする一因といえます。また、バスや列車の時間に追われながらも、土地の意外な一面に迫ったり、番組独自の視点で地形や歴史などを掘り起こしたりする内容のものも派生し、最早「街歩き番組」の一ジャンルにとどまらない発展を遂げています。
一方で「テッパン」の観光名所を敢えて外し、地元の人たちとの会話の面白さに賭けて、無名の田舎町を訪れる番組もあります。有名観光地は悪く言えば「目新しさが無い」ですが、無名の土地をチョイスすることで、「まだ見ぬ景色」に期待を抱かせる演出法と言えます。バラエティ番組の名物コーナーになったケースもあり、まさに「ディスカバー・ジャパン」を地で行きます。
セールスポイントの一つ「緩さ」
一部には先述のように「スリル」を味わう番組もありますが、街歩き番組や旅番組の多くは「ながら見」できる「緩さ」があります。例えば、観光名所のある街をめぐる番組の場合、放送時間は週末だったり、平日のお昼前後に編成されたりするケースが多いです。これがゴールデンタイムのバラエティやドラマだったら、しっかり見入る必要がありますが、街ブラ番組の場合は、洗濯や昼食の準備など、他の作業をしながら視聴していても、内容についていけます。この点は長所と言っていいでしょう。
さらにキャスティングという点でも、街歩き番組には、今をときめくアイドルは少なく、経験豊かなベテランタレントの出演が目立ちます。そして芸能人とは思えない、素の姿を垣間見せることで、意外性や安心感を醸し、番組の魅力度アップにつなげています。
コストパフォーマンスに優れたコンテンツ
これほどまでに、各局が「街歩き番組」に食指を示す理由の一つに、コストパフォーマンスの優秀さが挙げられます。例えば、スタジオ収録の場合、スタジオ使用料やセットなどの費用が嵩みますが、「街歩き番組」は基本、ロケなので、制作費はリーズナブルです。
また、一度撮影すれば、「名場面集」などの再編集で、一つの素材を再利用できますし、情報が古くなったら、スーパーでフォローするなど、更新も容易です。こういう「芸の細かさ」も視聴者に親近感を与える一つの要素でしょう。その結果、コアなファンが増え、どの番組もワンクールで消えることはほとんどありません。長寿番組が多いのも、番組としてのコストパフォーマンスの優秀さを示す指標です。
安易な量産が寿命を縮める可能性も…
一方でコストパフォーマンスに優れているメリットは、「安易な模倣」と背中合わせです。冒頭で述べたように、今や各局とも「街歩き番組」が百花繚乱で、やや供給過剰と言えなくもありません。「街歩き番組」は出演者の技量で「撮れ高」が如実に変わってきます。換言すれば、似たようなキャラクターのタレントを起用することで、類似のコンテンツの乱発につながり、それ自体の「消費期限」を縮めかねません。「視聴率がとれる」と各局がこぞって模倣した結果、視聴者の飽きを招いてしまう可能性もないとは言えません。「街歩き」をはじめ、ロケ番組が人気のいまだからこそ「差別化の重要性」を訴える必要があります。
テレビ各局には、まだまだ企画力があります。90年代に誕生した番組が、20年以上経った今でも放送されているということは、時代を超えた普遍性を視聴者が敏感に感じとっているからこその賜物です。既存の番組に改良を重ねながら、新たなコンテンツに仕上げていくのは、日本のテレビ界のいわば「お家芸」のはず。長寿番組の「長寿たる」所以もそこにあります。「マーケティング的な番組作り」に汲々とするのではなく、「特定のテーマ」を切り口にしてみたり、ニッチな部分をこじ開けたりするなどして、視聴者をアッと言わせるコンテンツを生み出すことこそが、差別化を図る第一歩といえるでしょう。その成功体験が、冬の時代が叫ばれて久しいテレビ業界復権の光明につながるのだと痛感します。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 石川 淳