動画はセールスプロモーションを進める上で効果的です。さらに、コンバージョン率、いわゆる成約率の向上も期待でき、数多くの企業が成果を上げています。こうした成果につなげるためには、動画のターゲットや目的、ゴールなどを明確化することが欠かせませんが、その際に基本になってくるのが「ヒアリング」です。今回は、動画制作におけるヒアリングの重要性や作成方法、さらには、依頼主が制作会社とのヒアリングに臨む際に、留意するポイントなどを紐解いていきます。
ヒアリングの目的と重要性
制作側は、依頼主がどんな動画を作りたいのか、予算やスケジュールはどのくらいかなど、動画を制作するために必要な情報や要望をヒアリングします。ヒアリングがなければ、動画制作会社はクライアントの希望を把握しきれませんし、言わずもがな、適切な提案もできなくなります。
ヒアリングした内容は「ヒアリングシート」にまとめるのが一般的です。ヒアリングシートとは「このような動画を作成したい」というクライアントの希望をまとめた資料のことです。通常、初回の打ち合わせでヒアリングした内容を基に作成され、制作会社はヒアリングシートに記載された情報をベースに、制作する動画を提案します。
換言すれば、依頼主が何の準備もしない場合、内容の薄いヒアリングシートができあがってしまうということにもなります。自社のニーズを満たし、成果につながる動画を制作するためにも、依頼主の側も入念に準備を行ってから、ヒアリングに臨む必要があります。
ヒアリングの具体と留意点
ヒアリングシートを構成する内容は多岐にわたりますが、なかでも欠かせないポイントは「5W1H」です。5W1Hとは「When(いつ)・Where(どこで)・Who(誰が)・What(何を)・Why(なぜ)・How(どのように)」という内容をまとめ、動画のポイントを押さえるフレームワークです。おそらく、学生時代に「5W1Hを意識して文章を書きましょう」と習った方も多いのではないでしょうか。5W1Hを意識することで、必要な情報の不足をなくす狙いがあります。これはフィールドこそ違えど、ニュース原稿を執筆する心得と共通点があります。
まず、Why=「動画を制作する目的」です。これは、企画段階でもっとも重要な要素と言っても過言ではありません。たとえば、動画をセールスプロモーションに活用するのか、採用活動に活用するのかによって、制作すべき動画はまったく違ってきます。このように、目的に応じて、制作すべき動画内容は決まります。視聴者に動画を見てもらった結果、どのような行動をとってもらいたいのかを考えることが最優先です。
目的が定まったら、次はWho=「動画のターゲットは誰か」です。動画制作を開始する前に、ターゲットは誰なのかを明確にしましょう。年齢や性別、趣味嗜好など具体的であればあるほど、そのターゲット層に訴える動画を作成できます。もちろん、ターゲット像をある程度まで絞り込む必要性はありますが、絞りすぎても逆効果になってしまうので、注意が必要です。
「目的」と「訴求するターゲット」が定まったら、次はWhat=「何を見せる動画なのか?」を考えましょう。例えば、商品プロモーションのための動画であれば、見せるものは商品そのものということになりますが、時として、それだけでは足りない場合も出てきます。機能性が魅力の商品なのか、価格の安さを前面に出したいのかなど、その商品の何を訴求ポイントにするかによって、動画の制作方法も変わってきます。「どの商品の、どの魅力を強調して見せるのか」まで、考える必要があります。
ここまで来ると、Where=「動画をどこで使うか」もある程度、見えてきます。なぜなら、この時点で、動画を流す環境や、利用する媒体など、最も効果的な活用方法が決まってくるからです。当然、場所や媒体によって制作できる動画に制約がかかってきます。例を挙げると、電車内でのデジタルサイネージで流すことを想定した場合、音を流せないので、音声なしで成立する動画を作らなければいけません。このように、事前に動画を流すシチュエーションや媒体ごとの特徴も考慮に入れておく必要があります。
さらにWhen=「いつ動画を配信するのか」も重要です。テレビCMの場合、同一スポンサーでも、平日と休日、昼間と夜間、さらには地域ごとで流れている素材が違います。これはスポンサーが自社商品をプロモーションするのに、最適な時間帯を選んで広告を出稿しているからです。同じことは動画配信にも言えます。最近はYouTube広告でも放映する時間帯を選ぶことが可能になっていますから、ターゲット層に適した時間帯を想定して、動画を制作すべきです。
最後のHowは「どのように動画で伝えるのか」「予算はどのくらいか」です。端的に言えば、動画の目的や放映する媒体、場所によって、求められる動画のクオリティに差がついてきます。複雑な動きのCGを使った方が、商品の訴求に向いている場合もあれば、比較的安い予算で作成できるストップモーションのアニメ動画で十分なケースもあります。当然、動画のクオリティ如何で費用も大きく変わりますから、まずは予算を提示して、その中から最適な動画を制作会社との話し合いで決めていきます。
発注者側の留意点
ここまでご紹介してきて、お分かりのように、ヒアリングは依頼主と制作側の密な連携が重要なことは、論を俟ちません。では、依頼主としては、制作会社とのヒアリングの際、どんな点に留意したらよいのでしょうか?
まず、ヒアリングの際に、動画制作の参考になる資料の準備が必要です。具体的には、会社案内や商品・サービスの説明資料が候補になりますが、他にも営業のプレゼン資料や過去の実績など、できるだけ多くの資料を準備しておくと、スムーズに進みます。資料が多いほど、制作会社はその企業の特徴や強み、競合との違いを理解できますし、結果として、動画の質にも反映してきます。
コンセプトや訴求ターゲットについては「5W1H」の項でも述べましたが、近年の特筆事項として、依頼する動画配信のプラットフォームが、YouTubeなのか、TwitterやInstagramなのかなども、制作サイドへ伝えるべき項目といえます。例えばInstagramなら、印象的でおしゃれな雰囲気に仕上げる必要がありますし、Twitterであれば、話題性が高く有益な内容にするなどの工夫が欠かせません。
動画の仕上がりについても、泣いたり笑ったりの場面が多い「感動系」を狙うのか、社会問題を織り込みつつ信頼感を上げていく「ブランディング系」にまとめるのかなど、大枠の希望を伝える必要があります。もちろん、この時点で、使いたくないNGワードなども伝えておきましょう。こうした要望が具体化することで、制作サイドはスタッフや出演者、機材など、スケジュール調整を始めることができ、必要以上に時間を取られることがなくなります。
まずは制作会社へ相談を
こうした点に留意した上で、まずは、制作会社への問い合わせからスタートしてみましょう。その際、動画制作の目的や使用用途、希望の納期、予算など事前に社内でコンセンサスをまとめておきましょう。その後の作業がスムーズに運び、双方ともストレスがなくなります。目的やイメージを明確化し、事前の準備をぬかりなく進めることこそ、動画制作、ひいては広告効果成功への第一歩といえそうです。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太