おいしそうな料理「シズル感」とは

おいしそうな料理「シズル感」とは
2022年1月24日 ninefield

 グルメ番組などで、おいしそうな食べ物を目にし、食欲や購買意欲がわいた方は多いと思います。肉の焼ける音を録音したり、美味しそうな匂いをイメージさせたりする湯気などを撮影し、食欲を刺激する映像を「シズル感」と呼びます。文字通り、「五感に訴えかける」映像表現で、肉の焼ける音を始め、肉汁が滴る様子や水分がはじける音を聴かせたり、料理の切り口のアップ映像を見せたりします。さらに、調理に限らず、人が食べ物を食べている時の「サクサク」「パリパリ」といった食感や料理を切る際の音も「シズル感」の表現といっていいでしょう。今回は「シズル感」について、その特徴や演出のポイントなどを、探っていきます。



 

 



シズル感の特徴と長所

 そもそもシズル(sizzle)とは、食材を焼いたり揚げたりしたときの、「ジュージュー」と音を立てる様子を表す英語です。転じて「シズル感」は、消費者の五感を刺激して食欲や購買意欲を高める演出方法のことを指すようになりました。この効果を使って、シズル動画は「音」や「温度」それに「動き」などをフル活用して、最大限においしさを表現する必要があります。ですから、フードコーディネーターは撮影する食材の性質を見極めて、美味しい状態を引き出し、一番美味しい瞬間を撮影します。こうして、消費者の五感が刺激され「食べたい!」「食べてみたい!」という購買意欲の活性化につながります。「主観目線」が多いということも、シズル動画の特徴の一つです。料理を食べる人や料理をする人の目線で撮影される傾向がありますから、ユーザーは動画に引き込まれやすく、料理のおいしさがイメージしやすい特徴があります。「おいしさ」をバーチャル体験してもらうことで、購買や来店といった次のアクションへの誘導がしやすくなります。

 「シズル動画」は商品の特性を生かして映像にしますから、写真だけでは伝わりにくい部分も消費者にアピールできるというメリットがあります。ステーキの焼ける音やまな板を叩く包丁の心地よいリズム、瑞々しい野菜にドレッシングがかかるシーンなど、人間の食欲や五感を刺激する要素であふれているため、説明やセールストーク不要のダイレクトな訴求が可能です。
 

「シズル感」演出のポイント

撮影する料理や食材の美味しさはもちろん、見えない香りや感触といった部分を映像や音でどのように視聴者に伝えるか、カメラマンやディレクターは常に考えています。
例えば、フワフワのパンの「フワフワ感」を伝えるには、出来立てのパンを割ってみたり、生地の気泡の細かさを撮影したりして、その質感を表現しようとしています。
 こうした撮影に必要不可欠な要素として、筆頭に挙がるのが、照明の使い方です。写真撮影ではシャッターを切った瞬間だけ光る「フラッシュ」や「ストロボ」の使用が定石ですが、動画撮影ではこうした「瞬間光」は使わず、タングステンライトをはじめとする「定常光」を使用します。料理を撮るときには全体を明るくした上で、正面からライトを当て、はっきりとした画面にします。また、順光だけでなく、逆光を使うことで、商品の輪郭をくっきり強調し、立体感やテリなどを表現します。さらに、影が出てしまう部分をフォローするために、ライトを2つ当てることもあります。

 温かい料理は「湯気」が重要ポイントなので、逃さないように撮影します。背景に濃い色の別珍を使用したり、部屋を涼しくしたりして、湯気が出やすい状況を作ります。また、鍋物の場合、鍋の蓋は撮影する直前まで閉め、湯気をためておきます。
冷たいものは水滴や霜で表現します。氷を使用した撮影は氷が溶けるので、こちらも湯気の時と同様、室温を低くしておきます。 
 
 こうしたスタンダードなテクニックのほかに、料理のどこを上げるかなど、タイミングもポイントです。例えば、グラタンをすくった際に、少しチーズがのびたカットは、今すぐ口に運ぶイメージを連想させます。また、湯気を出す演出をしても、盛り付けがバラバラだと美味しそうに見えません。家で鍋を作るように「ただ入れる」だけではなく、具材のバランスや切り方を考えて盛り付ける必要があります。

 また、視聴者に料理や商品のイメージをダイレクトに訴える手段として、調理者の目線で撮るのも、シズル感を演出する上では有効です。鍋にある食材を目の前で混ぜ、肉を切るシーンをできるだけ近くで見えるように撮影すれば、迫力ある映像が撮れます。さらに、料理を持ち上げるシーンも、箸などで持ち上げた料理がプルプル震えないように、肘を固定して慎重に持ち上げるなど、細かな配慮が必要です。

 おいしさ、瑞々しさを演出するには音の要素も重要です。例を挙げれば、天ぷらを揚げている「パチパチ」や氷の入ったグラスに水を入れ、「カラン」と氷が動いた音、さらには鉄板でステーキを焼く時の「ジュージュー」やトンカツを包丁で切った時の「サクッ」とした音など、枚挙にいとまはありません。それこそ、視聴者の食欲や購買意欲を満たすのに、音無しでの演出はあり得ません。これは実際の音を録音するケースもありますが、どうしても狙った音が収録できない場合は、SEのフリー素材など、市販のライブラリを使うことで、よりリアル感を出すことが可能になります。

 このように、料理や商品に使う食材の調理や製造工程を音も交えて、色鮮やかに演出し、上手くおいしそうに表現できると、臨場感が生まれます。料理や商品のリアルなイメージを強く訴求でき、視聴者の興味や関心を引き出せるでしょう。動画の最初の15秒にシズル感のあるカットを配置すれば、インパクトが生まれ、離脱者を最小限に食い止められると同時に、視聴継続数を伸ばしやすくなります。

 先述のように、湯気などは定番の表現ですが、ネット動画がもはやメインストリームになっているいま、「シズル感」は、時代に合わせたトレンドの演出・撮影方法が出てくる可能性を秘めているかもしれません。
 

プロへの依頼も選択肢に

これまで、シズル感について、その効果やテクニックについて、紹介してきましたが、やはり、照明技術などはプロでなければ、撮れないものもあります。確かに最近は、スマホでも簡単に動画が撮れるようになりました。しかし、撮影場所の準備や食材の買い物、さらにはカット割りや編集と、1分程度の動画を制作するだけでも、なかなかの作業量になります。加えて、機材の不足があったり、アングルにこだわった撮影や録音がうまくいかなかったりという具合に、一般の人には高いハードルが立ちはだかるケースも多いです。何よりも他の業務に影響を及ぼす可能性が出てきます。

 そこで、ここは制作会社への依頼を選択肢に加えてみては如何でしょうか。制作会社ならば、CMの撮影などで、シズル感演出の経験は豊富ですし、機材や撮影場所の手配も状況に合わせた最適なチョイスが期待できます。制作会社自体がスタジオを所有している場合は、よりフレキシブルな対応が望めるでしょう。依頼主はチェックするだけですから、他の業務への影響も最小限にとどめられます。シズル感を活かした動画制作をお考えの際は、ぜひ一度、プロへの相談を検討してみることをお勧めします。
 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要