テレビを見ていると、ドラマ、バラエティ、さらには情報番組に至るまで、あらゆるシーンで「食べ物」が出てきます。この食べ物の仕切りを一手に引き受けるのが、フードコーディネーターと呼ばれる人たちです。番組のエンドロールで、見かけた方も多いでしょう。料理番組への出演など、演者としてかかわる一方、「縁の下の力持ち」として、裏方で活躍することも少なくありません。番組の企画意図次第では、フードコーディネーター不在だと、番組そのものが成立しないケースも出てきます。今回はフードコーディネーターの仕事を通して、テレビの世界と「食」の関係について探っていきます。
フードコーディネーターの業務内容
一般的な概念として、フードコーディネーターとは「食」をキーワードに、食の楽しみ方や食環境を提案するスペシャリストです。メディアで活躍されている方々の影響からか、近年では、飲食業界を中心に注目を集めています。レストランのメニュー開発をはじめ、フードスタイリングや企業との商品開発をしたり、料理教室の講師を務めたりと、食に関する分野で幅広く活動しています。メディアでの仕事はその一環と捉えていいでしょう。
いわずもがな、食に関する専門知識や料理の基本技術はもちろん、食にまつわるさまざまな提案、アドバイスなどのスキルが重要になってきます。食の展示会や見本市で名刺を配って営業活動する人もいれば、日本フードコーディネーター協会に所属して各種メディアでの仕事をこなしている人もいます。このように、フードコーディネーターの仕事は多岐にわたりますが、テレビの現場では一体、どんな仕事をしているのでしょうか。
テレビ現場でのフードコーディネーター
フードコーディネーターとしての知名度が上がるほど、メディアでの仕事も増えてきます。テレビの場合、料理番組などで、アナウンサーやタレントにレシピ手順を教えながら、料理を作るシーンを見たことがある人は多いでしょう。また、企画構成の提案、調理法、使用する調理器具など、ほぼ全てを手掛ける人も少なくありません。一方で、ドラマやバラエティなどの番組を裏方で支えるコーディネーターもいます。
意外に思われるかもしれませんが、実はフードコーディネートの依頼は、突然のケースが多いです。大抵の現場では、ADや美術担当などが、自分達でこなしてしまいます。このため「時間や備品が揃わず、常勤スタッフだけでは不可能」と言った場合に限り、ヘルプ依頼が来ます。スタジオ内には基本、調理施設は整っていないので、食材はもちろん、調理道具まで、すべて持参して行かなくてはいけません。お皿一枚、食材一個が足りないために、全体の進行を止めることになったら大変な迷惑が掛かりますし、そもそも忙しいタレントは次の予定の都合上、終わりの時間をずらせません。ですから、その予備を含めると、山のような荷物になります。中には設備の不備を見越して、自宅でほぼ作って、一睡もしないまま、現場へ持参したという「武勇伝」もあります。
こうして、食材や器具、食器といった具合に、テレビに映った時のテーブルコーディネートの準備が始まります。ここで注意が必要なのは、お店の厨房などで調理する事とはまた違ったテレビならではのスキルです。例えば、料理番組では撮影がスムーズに進むよう、途中まで作った差し替えを用意したり、調理や撮影の順序を間違えないように、調味料を順番に並べたりと細かい気配りが必要になります。
先述しましたが、バラエティや情報番組などでは、折り畳みの長机を使って、スタジオの隅で調理することもあります。特にドラマでは「15分後のシーンに合わせて、麺類を調理」といったリクエストが頻繁に出てきます。ですから、絶えず台本を確認し、進行具合を気にしながら、手を動かさなければいけません。
また、料理には音がつきものですが、これが収録には思わぬ障害になります。裏で大きな音を出してしまうと、表のマイクが拾って雑音になり、せっかくのテイクが、台無しになってしまいます。こうした些細なミスが、現場のモチベーションに影響を与えてしまうことは避けなくてはいけません。物音を立てないように調理も盛り付けも会話も静かに進めることが肝要です。加えて、電子レンジなど電子音がするものも強敵です。電気系の調理器の「ピー」音などももちろんNGです。したがって、調理器具は、スタジオのすぐ外に配置するなど、最大限の配慮が欠かせません。
この他、主にドラマの現場ですが、食事シーンやお店の料理を作ることもあります。通常は美術の「消えモノ」担当が準備しますが、料理やスイーツがドラマの見どころだった場合、フードコーディネーターがメニューを開発したり、見栄えのするものを考案したりします。
先述の通り、「何分で仕上げたい」や「ダイエット特集」といった番組からの要望に、できるだけ応えることが求められます。食に関する知識が重要なことは論を俟ちませんが、特にテレビの場合、食に関する新しいワードや食材に注目する傾向があります。したがって、食に関しては「人気グルメ」から「コンビニスイーツ」、さらにはSNSで流行している食べ物まで、貪欲にアンテナを広げておかないとアイデアの引き出しが尽きてしまいます。
フードコーディネーターの業務受注の実態
フードコーディネーターの場合、仕事を獲得するには、現場経験と人脈がとても大切です。例えば、現役で活躍するフードコーディネーターのアシスタントとして修業を積んでいれば、幸いにして、先輩コーディネーターから、その現場を引き継がせてもらえるチャンスも出てきます。他にも、料理教室に通いながら、現場では、アシスタントとして下積みを積んで人脈を広げたり、食の展示会や見本市で名刺を配ったりして、営業活動に勤しむ場合もあります。この他にも、日本フードコーディネーター協会に入会すると、仕事のマッチングサービスも受けられ、恩恵に与かれる可能性が拡がります。最近はSNSでの発信で、仕事の幅を広げている人も増え、特に食の美しさを前面にアピールできるInstagramでは、これまでのスタイリング・テクニックを駆使して自分の世界観を表現しているケースもみられます。1つの仕事に携わる期間は千差万別ですが、短いものだと1日単位、大きい仕事だと半年以上、さらに連載やレギュラー企画だと数年にわたることもあります。
依頼の際には制作会社のサポートも選択肢に
ここまでフードコーディネーターとテレビ業界とのかかわりについて、ご紹介してきましたが、いざ、一般の人がいきなりコーディネーターの会社へ連絡を取るよりも、制作会社を通じての方が、ノウハウや料金交渉、スタジオのレンタルなど、様々な面で、断然、有利です。例えば動画制作やイベントなどで、フードコーディネーターのサポートが必要になっても、テレビの制作現場での経験が活かせる場合も多いですし、撮影に関わるスタジオ手配などもプロの眼から見て、適切に対処してもらえるでしょう。人選もまた然りで、クライアントのニーズに合った最適なコーディネーターに「当たりをつけられる」と思います。ここはぜひ、プロの手を借りて、納得いくコーディネーターとのマッチングを試してみてはいかがでしょうか。
テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人