最近では様々な教育や研修の場面で耳にするeラーニング。一言でいえば「コンピュータとインターネットを利用した、双方向的なコミュニケーションが可能な学習方法」です。「eラン」と略されたり、最近では「オンライン学習」とも呼ばれたりする場合もあります。そのeラーニング、最近、公共機関や一般企業の現場で、教材コンテンツの一部に動画を使ったり、教材そのものを一本の動画で制作したりする例がとみに増えています。例えば、大学をはじめとする高等教育機関では、学生はもちろん、教職員の教育や研修にまで、動画を使ったeラーニングの導入が進み、完全オンライン化は最早、目前です。人々の往来のあり方が変わり、出張などが激減する中、この動きは今後、ますます加速していくでしょう。今回はeラーニングの現状を探りながら、動画利用する際の留意点や制作のポイントなどを深掘りしていきます。
教育ソフトの黎明期とeラーニング急増の背景
動画教材の歴史は古く、1959年にNHK教育テレビ(現:Eテレ)が誕生して以降、現在までずっと放送の柱になってきました。後に、総合局へと転じましたが、テレビ朝日やテレビ東京も、当初は教育専門局として開局し、教育番組を放送していたことがあります。90年代に入ると、VHSやDVDといったパッケージソフトに加え、CS放送のチャンネルの一部を利用した大手予備校の出前講義などが始まり、それまで大都市圏に偏在していた教育資源が、地方でも比較的簡単に入手できるようになりました。ほぼ、時を同じくして、国を挙げてのIT化が始まり、こうした教育ソフトの主力はインターネットへと移っていきます。
そして世紀を跨いだこんにちでは、変化の速いビジネス環境と人材不足に伴う「ヒトへの投資」という観点から、教育に力を入れる公的機関や企業が増えています。これに拍車をかけているのが、ここ数年、飛躍的に参入のハードルが低くなった動画配信です。背景には、オフィスのIT化、そしてオンライン化が目覚ましい勢いで進捗していることが挙げられます。ネットワークやデバイスといったハードの側面はもちろん、動画配信サービス、動画編集ソフトなどの発達も、企業教育への動画導入を後押ししています。
eラーニングの特性は「いつでも・どこでも・何度でも」が利くことです。つまりパソコンやスマートフォンなどのモバイル端末を使って、業務の合間や通勤時間など、各自が好きなタイミングで学習できます。これまでは、集合研修など対面型を前提とした教育体系でしたが、eラーニングの出現で、動画ならではの学習効果を掛け合わせた教育体系が構築できるようになったといえます。いわば「研修のオンライン化」です。つまりeラーニングは、インターネット環境とパソコンやスマートフォンなどの端末さえあれば展開可能ですから、遠隔地の支店などで、本社と同じ内容の研修をスピーディかつ個々人のタイミングでタイムリーに行なえます。企業研修をeラーニングで行なえば、交通費や宿泊費は一切かかりませんから、集合研修に比べて、費用は大幅に抑えられます。また、学習は受講者各自が好きなときに行なえるので、スケジュール調整の手間もかかりません。この発展形として、ウェブでのセミナー開催、所謂「ウェビナー」の導入も進んでいて、録画したウェビナーの集合研修を動画コンテンツにまとめ、eラーニングの教材に流用する例も出始めました。
動画教材のトレンド
では、実際にどんな動画教材に人気が集まりやすいのでしょうか。まず、大事なのは「結論を先出しにする」ことです。最初に何を伝えたいかという「目次」を明確にした上で、なぜ、その結論が導き出されるのかを掘り下げた方が、観ている人の理解度が高まります。
さらに最近は、ポイントを押さえた上で、動画の長さも出来るだけ短くまとめる方が好まれる傾向にあります。御多分に漏れず、eラーニングも従来に比べるとどんどん短くなっていて、最近は5分前後の動画が主流になっています。
動画視聴の端末は何もパソコンだけではありません。大都市圏では、通勤時間が長いこともあって、スマートフォンでの受講が主流になっています。まさに「スキマ時間」にぴったりの学習方法といえます。動画教材を作るなら、秘匿性の高い内容でない限り、個人のスマートフォンで受講できるようにする方が、確実に受講チャンスが拡がります。
具体的なアクションを伝える場合、文字よりも動画に優位性があります。例えば、作業手順や接客方法など、動きや発声を伴う業務の習得は動画の独壇場です。これはYouTubeのハウツー動画を観れば、一目瞭然です。文字情報や図表のほか、映像やアニメーション、さらにはCGやVR(仮想現実)などを利用することができます。動画やイラストを使った教材で学習できるため、学習のモチベーションが上がりやすいというメリットがあります。場合によっては、PowerPointで作成した資料を組み込んだり、スマホで撮影した映像を採り入れたりといったアイデアも出て来るでしょう。動画を制作する側としては、とにかく、教材としての分かりやすさ、学習効果の高さをポイントにつなげ、最後まで飽きずに見てもらえるような教材づくりを目指すべきです。
eラーニングの意外なメリット
eラーニングの長所は何も動画での受講だけに限りません。受講者の学習および教材閲覧、受講者の学習状況の管理を一元化できることも大きな魅力です。このようなインターネット上で行なうシステムを「学習管理システム=LMS」と言います。
LMSを導入することは受講者目線でいえば、講義の受講からテストの回答、レポート作成までを一括管理でき、非常に便利です。さらに受講履歴や達成度の確認、他の受講者との交流まで可能になるので、受講の質や理解度が格段に高まります。
また、目線を人事担当者や講師の立場に変えますと、受講者への教材配信や学習の進捗状況の管理、さらにはテスト結果の分析といった分野まで、一つのラインで完結でき、煩わしい管理業務から解放されます。
番組制作の経験は動画教材制作に応用可能
こうしてハード面は日々、進歩していますが、やはり見やすい動画、理解度が高まる動画を作るという点では、コンテンツを作る人間の構成力に関わる部分が非常に大きくなります。ただ、闇雲に動画素材を突っ込んで、作りあげたとしても、観ている受講者は「何がポイントなのか」訴求が散漫なため、せっかくの動画がかえって足かせになりかねません。その点、制作会社ならば、テレビ番組の制作経験が豊富ですから、企画から構成、絵コンテはもちろん、ロケハンや実際の撮影、さらには編集に至るまで、オールインワンで完結できます。一般企業の場合、わかりやすく、受講効果の高まる動画を作るには、アイデア面でなかなかハードルが高いと思いますし、よしんば、アイデアを持っていたとしても、機材購入や映像編集の面で、負担が大きくなります。動画制作に頭を悩ますあまり、他の業務に影響を及ぼす危険性も高まります。動画制作をお考えの方は、是非、プロへの相談をおすすめします。経験に裏打ちされた豊富なアイデアで、きっと満足できる教材がお手元に届くでしょう。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要