洋画はもちろん、ニュース番組や海外映像を使ったバラエティなど、いまやテレビで吹き替えを見ない日はありません。特にワイドショーの場合、外人のインタビューを日本語に訳した上で、ボイスオーバー処理するのが、当たり前になっています。このセンスは台本作成者次第。つまり、的確な意訳を限られた字数にどううまく詰め込むかが問われています。さらに、海外ドラマの場合、吹き替え次第で人気が出たりする場合もあります。今回は吹き替え映像を作る際のポイントについて深掘りしていきます。
需要が拡がる「吹き替え動画」
インバウンド動画など、海外を意識した映像制作が盛んになってきています。また、海外の事業所などを日本で紹介する場合も吹き替えが必要になってきます。こうした環境は「吹き替え動画市場」の拡大に追い風になっています。特にリモートなどで動画を披露する機会も増えていて、この動きはますます盛んになるでしょう。
とはいえ、視聴者にわかりやすいように、外国語の音声を日本語で吹き替えたり、逆に日本語の音声を外国語で吹き替えたりする作業は、一朝一夕にはできません。どうしたらいいのでしょうか。
まず「吹き替え制作」を成功させる際に大切なのは、日本語として自然な言葉になっているかということです。当たり前ですが、日本語と外国語では言葉の組み立てや文法構造が異なりますから、言葉の総意を汲み取って、大胆に意訳することも必要になってきます。
次に重要なのは、唇の動きとできるだけ合わせることです。例えば日本語の諺と外国語の諺では字数が大きく違う場合も多く、洋画に日本語を当てた場合、演者の口の動きと合わなくなってくることが増えてきます。ですから外国語の知識よりもむしろ「どの日本語が長さでもあるいは意味的にもしっくりくるか」を意識する必要が出てきます。
その際、まずは標準語で訳すことが前提になりますが、作品によっては演者のキャラクターを強調するために、関西や東北といった各地の方言でアレンジする場合もあります。
また専門用語が多い場合には字幕も使用して補足することも視野に入れる必要があるでしょう。これまで述べてきたように、ただ吹き替えをするだけであれば、時間をかければある程度のことはできるかもしれません。しかし前述のような注意点に気を付けて制作するのは、やはり経験を積まないと難しいのが実情です。ここで、経験のある翻訳者やキャスト、制作会社に発注するという選択肢が浮かび上がります。
もちろん、吹き替えにせず、字幕を付けるという方法もありますが、聞き慣れた言葉が、耳から聞けるので、自然に理解しやすかったり、映像に集中できたりするなど、吹き替えならではのメリットは見逃せません。
先述のように、吹き替えとは、外国語の映像に合わせた日本語の音声を入れる、または日本語を外国語に変換するという作業になりますが、ただ合わせるだけの作業で、翻訳さえすれば簡単にできると考えているというわけではありません。映像を見ていて違和感がないように吹き替えを入れるのは意外に難しいことは、作業を始めれば、ほどなくして気づくはずです。専門用語が飛び交う展示会やセミナーなどで動画を使う場合、その難しさは特に実感するのではないでしょうか。
作業上での具体的な留意点
では作業を進めていくうえで、どんなことが留意点として浮かび上がってくるのでしょうか。まず、候補に挙がってくるのは、声優やナレーターといった演者のキャスティングです。吹き替えに対応できる技量があるかの見極めはもちろんですが、オリジナルの声と似た雰囲気を持つなど、登場人物同士の声の相性なども重視する必要が出てきます。あまり声質に差があると、元の音声に吹き替えを被せる「ボイスオーバー」をする場合に聞き苦しくなります。キャスティングはまさに作品の成否を握る重要な要素といえるでしょう。
次に挙がるのが、台本制作です。実は吹き替え作業の場合、翻訳担当者が吹き替えの台本を書くことが多くなります。語学に長けているわけですから、当然ですが、ただ翻訳するのではなく、唇の動きに台詞が合うよう、息継ぎや言葉の長さに注意しながら長さを合わせる必要があります。元の映像では話が終わっているのに、ボイスオーバーの音声が延々と続くようでは、見苦しいことこの上ありません。ですから先述の通り、台本作成者は、外国語の知識以上に、日本語の知識が大きく問われます。
キャストと台本が固まったら、スケジュールを調整して、録音します。この時、監督やディレクターは、音楽やSEといった他の音素材とのバランスも考えながら、きちんと方向性を定めて、的確に指示を出す必要があります。録音終了後は、音声データからノイズを抜いたり、微調整をしたりして、声のトラックを完成させます。さらに、映像と音声データを見ながら、音楽やSEなどとミキシングしていくMA=マルチオーディオ作業へと続きます。今は編集がPC化したので、ずいぶん楽になりましたが、ファイルベース化以前は、出来上がった映像素材をみながら、音効さんが6ミリのオープンリールへ録音していく作業でした。ですから、テイクを重ねると互いに結構、不機嫌になり、険悪なムードになったりしたものです。また、ワイドショーなどで、インタビューの登場人物が多いにも関わらず、複数の声優さんを雇う余裕がない場合、ディレクターやADが声の出演を任されることもありました。ちなみにアナログ時代はテープからテープへの編集が主だったので、ボイスオーバーをしようとすると、左右2チャンネルしかない音声トラックでは足りない場合もありました。このため、ボイスオーバーが必要な映像素材は、ナレーションとSEを1つのチャンネルにミキシングして、チャンネルを稼いだうえで、ボイスオーバーのコメントを収録する必要があり、PC編集では考えられないような手間がかかっていました。
こうして、完成した作品の確認に漕ぎつけますが、吹き替え前の言葉と意味が変わっていないかなど、最終チェックが重要になってきます。せっかく苦労して最終チェックまで漕ぎつけても、たった一度のミスで、再び収録し直しなどという悲劇にも見舞われかねません。まさに最後まで気の抜けない作業が続きます。
やはりプロには敵わない
これまでご紹介してきたように、一言で吹き替えといっても、各担務で極めて専門性の高い作業が続くことは論を俟ちません。ですから、キャスティングはもちろん、台本作成や収録、その後のMA作業はやはりプロの出番になることが多くなります。何よりも収録機材がしっかりしていますし、声優・ナレーターの選定や翻訳者の手配といったノウハウも豊富です。これを一般企業や個人だけでやろうとすると、機材の整備だけで高額な出費を覚悟しなければいけませんし、キャストの手配もどこから手を付けていいのか途方に暮れるはずです。何よりも精緻な編集の連続に精根尽き果ててしまい、他の業務と兼ねている場合は影響が出かねません。映像編集も含めて、是非、プロへ相談してみては如何でしょうか。吹き替えに限らず、いい動画を作るために、色々と知恵を絞ってくれるはずです。そのことが展示会やセミナーをはじめとしたビジネスシーンでの誘客増につながることは間違いないと思います。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介