影で支える芸能マネージャー

影で支える芸能マネージャー
2021年10月11日 ninefield

最近は表舞台に出て来る場合もありますが、芸能マネージャーは今も昔も、芸能界の黒子として、欠かせない存在です。タレントへの仕事のオファーを取りまとめることはもちろん、放送局サイド、特にディレクターとの調整や、タレントのメンタルケアに至るまで、実に細やかな気遣いが求められます。また、現場同行なども多く、体力的にもタフさが求められる他、タレントの将来を見据えたプランニングも重要になります。今回は芸能マネージャーの仕事を紹介しながら、求められる人材像について探っていきます。



 

 



タレントマネージメント業務の実態

一般的に、芸能マネージメント業務のイメージは、タレントを自宅まで送迎し、現場も同行、さらにはスケジュール管理といったものが挙げられます。もちろん、それはそれで業務の分掌範囲ではありますが、それだけでは仕事は務まりません。担当タレントが出演する企画内容の把握や現場ディレクターとの意思の疎通が欠かせないことは論を俟たないでしょう。
例えば、お笑い芸人などがよく番組でネタにしていますが、マネージャーが現場に来ず、タレント一人で対応し、散々だったというボヤキを耳にします。これはタレント一人にマネージャーが必ず付くという実態ではないことを示しています。
よくあるのは、4~5人の新人タレントを一人のマネージャーが担当する場合です。もちろん、アイドルグループならば、当たり前ですが、先述のお笑い芸人の話では、コンビやトリオをまとめて複数担当する場合もあり、事務所の車で各メンバーをピックアップしていくというから、大変さが伝わってきます。この場合、タレントの送迎だけでなく、企画内容の把握も求められるので、まさに頭の中はフル回転です。逆に大物芸能人の中には3~4人のマネージャーがつき、「スケジュール担当」「身のまわり担当」といったような羨ましいケースもあります。

 

スケジュール管理が全てに優先

マネージメントで最重要なのは、タレントのスケジュール管理です。先述しましたが、マネージャー1人で複数の芸能人を担当することもあり、その場合は複数の芸能人全員のスケジュールを管理します。ここで大変なのは、現場があちこちに点在しているという点です。売れっ子になれば、早朝から深夜まで、仕事が詰め込まれますが、そこに、現場間を移動する時間も考慮する必要が生じてきます。これを上手くまとめられないと、時間が詰まりすぎて、遅刻やダブルブッキングの危険性が高まり、先方への信頼はガタ落ちです。逆に余裕をつけすぎると、時間が空いてしまい、タレントのモチベーションが保てないといった問題が起こります。
当然、心構えとして、タレントが今後の予定をいつ尋ねても、答えられるようになっていないと、新たに予定を入れる際に、スムーズな対応ができなくなります。少なくとも直近1週間ほどのスケジュールは覚えておかないと、支障をきたすでしょう。

 

売り込みは事務所の命脈

芸能人を売り込む営業活動もマネージャーの仕事です。大御所タレントにつくなど、複数のマネージャーで担務を分担している場合ならばいざ知らず、大抵のマネージャーにとって、タレントの売り込みは、タレント本人はもちろん、ひいては事務所の命脈を握る業務といって差し支えないでしょう。主に新人タレントを売り込むために、オーディションを探したり、テレビ局のプロデューサーへ掛け合ったりするのは、一般の人たちにも、イメージしやすいと思います。また、売れているタレントとこれから売り出そうとするタレントを「抱き合わせ」にして番組へ出演させる「バーター」を実現できるかもマネージャーの腕の見せ所です。
 

現場への同行と諸々の手配

追っかけファンはもちろん、芸能マスコミからタレントを守ることもマネージャーの大事な仕事の一部です。したがってタレントの自宅から仕事の現場までの送迎は、マネージャーが担当する場合が多くなります。当然、コンビやグループなど、対象人数が多い場合は、その分だけ、仕事が増えることになり、繁忙を極めます。
現場に着いてからも、マネージャーの仕事は多岐にわたります。まずタレントを連れて、現場のスタッフ、特にディレクターやプロデューサーへ挨拶をして回ります。この他、自分たちより、先輩の出演者にも挨拶したり、場合によっては差し入れをしたりして、担当するタレントがスムーズに仕事できるように、気を配ります。これができていないと、マネージャーはおろか、担当のタレントも信用されなくなり、その後の仕事のオファーにも影響が出てしまいます。
こうして、まわりとの関係をスムーズにするのは、少しでも、高いパフォーマンスを発揮してもらう必要があるためですが、この他にも、タレントが愛用している小物や好物の飲食物を楽屋へ用意しておくなど、現場で少しでも不自由せずリラックスできるようにサポートするのも、芸能マネージャーの仕事といえます。

 

将来ビジョンを考える

その一方で、闇雲な売り込みについては、首を傾げます。例えば、清純派で売っているタレントが、番宣企画の名目で、バラエティ番組に出ずっぱりになると、かえって、イメージが損なわれてしまい、将来の役のオファーに影響が出る可能性があります。確かに仕事を受けるだけ、収入にはつながりますが、長い目で見れば、損することも否定できません。イメージにそぐわなければ、断る判断力と勇気を持つことも必要ですし、逆にマンネリ化したイメージを覆すためにあえて仕事を受けるなど、従来とは違った作戦を立てる必要も出て来るでしょう。芸能人の将来的なビジョンを考え、仕事は闇雲に受けるのではなく、タレントをどう育てたいのか、確固たる戦略が必要になってきます。
 

求められる人材像

とかく芸能界は浮き沈みの激しい業界です。きのうまでスターだった人がスキャンダルに巻き込まれたり、ブームに見放されたりして、一夜にして仕事がなくなることも珍しくありません。昨今はYouTuberなど、テレビ以外のメディアからも参戦が相次ぎ、競争はより激化しています。ですから「仕事を奪われるのではないか」と常に不安に苛まれているタレントのメンタルケアはとても大切です。
人当たりが良いこと、コミュニケーション能力に長けた人物であることなど、芸能マネージャーに求められる要素は数多、あります。どれが欠けてもマネージャーの資質としては失格ですが、中でも重要なのは、一般の視聴者やファンの目線に立って、その心理を巧みに汲み取り、タレントの芸能活動にフィードバックさせていくことではないでしょうか。それは、タレント本人のモチベーションを引っ張っていくことにもつながると思います。現場で、ディレクターなど撮影者サイドと、タレントの意見とに折り合いを付けなければいけない場面も想定されるでしょう。こうした場面で、どうしたら双方に気持ちよく仕事をしてもらえるか。時にはタレントの盾になり、時には愛情を持って、タレントを叱咤する。こう考えると、芸能マネージャーは最高の現場監督といえなくもありません。そして、マネージャー業務を通じて、どんな人がタレントとしてブレイクするかを見極められれば、それは「名伯楽」とも言えるのではないでしょうか。
 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人