高画質に対応テレビ局専属ヘアメイク

高画質に対応テレビ局専属ヘアメイク
2021年8月23日 ninefield

テレビへスタジオ出演したことのある人ならば、出演前にメイク室へ入り、髪型やメイクアップをしてもらった経験があると思います。メイクさんや美粧さんと呼ばれ、番組のスタッフロールでも見かけます。表舞台に出ることはありませんが、デジタル化で、映像の高精細化が進む現代のテレビ放送では、いわゆる出演者の「見栄え」を支える存在として、重要性が高まっています。今回はいわゆる「ヘアメイク」にスポットを当て、業務内容はもちろん、どんな素養が求められるかなどについても、探っていきます。



 

 



ヘアメイクの重要性が増す背景

「ヘアメイク」とは「ヘアセッティング」と「メイクアップ」のことを指します。
メイクは顔のメイクだけでなく、ボディペイントやネイルアートまで含まれる場合もあります。先に少し触れましたが、地上デジタル放送の場合、映像の解像度はアナログ時代の倍以上です。視聴者にとっては、歓迎すべき事柄ですが、放送技術の現場では、従来にない対応を迫られることになりました。ヘアメイクの世界も例外ではありません。
もちろん、アナログ時代からこうした美粧系の職種は存在していましたが、いまほど、厳密ではありませんでした。化粧が習慣づいている女性は別として、ローカルニュースなどでは、男性アナウンサーはメイクをしないことが当たり前でした。

しかし地上波がデジタル化し、ほぼ全ての番組がフルハイビジョン化して以降、日常用のメイクだけではレンズを通すと顔色が悪く見えることが出てきました。つまりテレビ画面上できれいに見えない部分を補正する必要が生じたのです。具体例を挙げると報道・情報番組の場合、女性は普段から化粧していますが、男性はしていないので、女性と並んだ時に映りに差が出てしまいます。当然、男性でも肌がきれいに映る方が視聴者の印象も変わってきます。

こうした技術革新は報道や情報番組以外にも、ヘアメイクの需要を拡げるキッカケに発展しました。役柄やシーンに応じてメイクが必要なドラマの場合、アナログ時代でも俳優専属のメイク担当がつくのが一般的でした。しかし、テレビ局の予算の都合上、制作費の安いバラエティ番組が増えてからは、コントやキャラクター出演の場面などで、芸人にメイクを施す機会が増えました。テレビ業界でヘアメイクの重要性が増す背景には、こうした業界全体の技術革新や台所事情が反映しています。

 

局専属とフリーの違い

在京キー局の場合、番組単位で専属のメイクアップアーティストを専門のプロダクション経由で雇うことが殆どです。専門性が強いですし、特に生番組の場合、早朝から深夜まで番組の放送時間に合わせて出勤する必要があるからです。ドラマなど、収録モノの場合は、撮影が終わるまで帰ることができず、帰宅が深夜になることもしばしばあります。不規則な仕事といえるでしょう。この場合、芸能人のみならず、政治家やコメンテーターなど、番組に出演するほぼすべてのヘアメイクを担当します。

一方で、芸能人個人と専属契約を結んでいるフリーランスのメイクさんもいます。その芸能人に日々付き添い、局を跨いでメイクを施します。この場合、担当する芸能人のスケジュールに沿って、勤務時間が決まります。ヘアメイクは出演者の個人差があるため、演者個人の事情を熟知している専属契約の方が、メイクをされる側にとっては、安心してメイクに臨めると言えるでしょう。

 

業務上の留意点

芸能人のメイクアップアーティストの仕事は、一義的にはタレント、アナウンサー、モデル、アイドル、お笑い芸人など、それぞれに合ったヘアメイクをすることです。出演者の魅力を引き出すのはもちろん、TPOに合ったヘアメイクが要求されますから、単純にメイクをすればいいというわけではありません。番組が真面目な硬派系か、バラエティなどの軟派系か、どんな衣装を着るのか?といったことを把握した上で、番組にふさわしいメイクを施していきます。

例えば、徹夜明けや病人の顔などを作る際、ドラマだとリアリティ重視ですが、バラエティではオーバーメイクで強調します。病人メイクではドラマの場合、唇の血色を消す、顔を黄色っぽくして黄疸に見せるといった技術を使いますし、熱を出している設定なら頬を赤くして脂汗を付けたりもします。しかし、オーバーメイクだと、バラエティのキャラクターに見えてしまい、シリアス狙いがお笑いになってしまいます。さらに、時間も限られるので、スキルはもちろん、経験値に裏付けされた臨機応変な対応力も要求されます。

 

業務の流れと求められる人材像

では、実際に仕事の流れはどうなっているのでしょうか。まず、メイク道具などを準備してテレビ局や撮影現場へ出勤します。局に到着したらメイク室で、生放送や撮影前に出演者にメイクを施します。放送が始まってからもCMといった撮影の合間に崩れたヘアメイクを直します。本番終了後、メイク道具などを片付け、制作スタッフなどと次の仕事の打ち合わせをして帰宅します。先述しましたが、撮影が終わるまで帰ることができないので、収録の開始時間によっては、帰宅が深夜になることもザラです。こうした業務の性格上、芸能界やヘアメイクに対する高い知識と技術はもちろんですが、まずは激務にバテない体力が求められます。その上で番組やスポンサーのニーズを汲み取る能力、さらには他のスタッフと協力できるコミュニケーション・スキルや協調性も必須条件といえるでしょう。
 

地方局の場合

もっとも、専属のヘアメイク担当がいるのは、在京局や在阪局など、大きな局の場合が殆どです。大都市圏以外にある規模の小さな地方局だと、主に女性アナウンサーが演者メイクを担当します。正月特番などで和装が必要な場合は、スポンサーになっている地元の美容室や着付け屋さんに出張してもらうこともあり、ローカル営業の顔つなぎの面も併せ持ちます。特に、大変なのは政見放送の収録です。候補によっては、本人の納得いくメイクが完成せず、何度もメイクのし直しを要求するケースがあります。次のスケジュールも迫っていて、微妙なムードになりながら、時間いっぱいで収録に臨むことになります。ですから、テレビ業界でヘアメイクの仕事をしたいなら、首都圏や関西といった大都市圏でなければ、専業として難しいでしょう。
 

テレビのメイクさんになるには…

芸能人や有名人のメイクアップアーティストになるには、テレビ業界などの仕事を請け負っているプロダクションに入社することが近道でしょう。「美容師免許」が必要な場合もあります。ただし、プロダクションの求人は多くはないので、常にアンテナを張り巡らせておく必要があります。

芸能界での活躍を夢見るメイクアップアーティストは数多です。ですから、どの募集案件でも応募者多数の激戦になります。面接や試験を合格するためには、高いスキルはもちろん、協調性や社交性も併せ持つ必要があるといえるでしょう。先行き不透明な部分もありますが、テレビ業界は今後4Kから8Kへのさらなる技術革新のレールが敷かれています。高画質化がどんどん進むにつれて、ヘアメイクの世界も進化の一途をたどることは論を俟ちません。テレビ局のヘアメイク志望者は、高画質時代に対応したヘアメイクのスキルを磨くことこそ、採用実現への最短距離といえるかも知れません。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人