地震や洪水、台風、津波…。国内のみならず、世界中で記録的な自然災害が続発しています。深刻な被害が懸念される状況を受け、一つの対応策として注目を集めているのが、映像を活用した監視システムです。もちろん、無人カメラによる監視システムは20年以上前から存在しましたが、電源や本部への通信手段の確保が課題になってきました。しかし、近年は、電源やネットワーク環境が無くても太陽光パネルと携帯電話の通信網さえあれば、すぐに運用可能なので、より多くの箇所に設置でき、危険度を検知する精度が向上しています。今回は防災カメラの現状を考察しながら、防災事業の重要性を住民に理解してもらえるには、どうしたらよいかまでを探ります。
進化する防災カメラ
国際的に見ても、日本は自然災害の多い国と言われています。地震とそれに伴う津波をはじめ、台風、豪雪、洪水、土砂災害と常に何らかのリスクを抱えながら、国民は生活を営んでいます。
特に近年は、地球温暖化の影響も加わり、世界的に異常気象が続いていて、日本でも記録的な大雨で、河川や用水路の氾濫が続出しています。こうした環境の下、人的被害を最小限にとどめるために注目を集めているのが、防災カメラによるリアルタイムでの監視です。「監視カメラがないために、災害現場の状況が把握できなかったり、幸いカメラはあったものの、管理が別のシステムになっていて、活用できなかったりするなど、悔しい思いをした自治体職員は多いはずです。災害対策の司令塔で一元管理できれば、防災や減災に対して、より効果的といえます。
防災カメラの導入以前は、職員を派遣して現場の状況を確認し、職員同士の情報共有は言葉やレポートの場合がほとんどでした。しかし、情報の送り手側と受け手側で、認識能力や客観性に差があるため、正確に伝わらないケースが頻発していました。
防災カメラが見直される大きなきっかけになったのは、10年前の東日本大震災です。様々な被害状況がテレビやインターネットで中継されたことはご記憶の方も多いでしょう。映像は誰が見ても同じく、目の前で起こっている事柄に対して同じ認識を共有できます。関係者が同じ認識を共有することが、正確な判断を下す必要条件といえます。この経験から、災害時に現場の状況を把握する手段として、防災カメラの重要性が改めて認識され、自治体による導入が進みました。また、一般の人も防災カメラに対する意識が高まったといえます。
さまざまな自然災害に展開する監視システム
スピードの点でも監視カメラは大きなメリットがあります。異常気象が相次ぐ中、想定外の事態に遭遇したときこそ、現場状況の早急な確認と、関係部署への迅速な連絡が問われます。早期の連絡を基にすばやく対策を講じれば、二次災害の防止や減災に役立ちます。その点、人員を現場に派遣するよりも、防災カメラによる監視が有効なことは論を俟ちません。
性能や技術の進化も防災カメラの普及を後押ししています。例えば、大雨が降って、河川が氾濫した場合、これまでだと、カメラの精度や設置個所の制限があって、数値データによる分析がメインでした。しかし最近は、各所に取り付けられた水位センサーと高解像度カメラが連携し、河川や用水路の様子を監視。水位が予め設定した危険域に達すると、アラームが通知されるようになりました。従来は電源やネットワーク環境に縛られ、一定の箇所でしかできなかった監視も、先述の太陽光パネルや携帯電話網の利用で、場所を選ばずに行うことができ、住民へより的確な避難指示が実現しています。
こうした監視システムの進化は、さまざまな自然災害への対策に展開しています。例えば、土砂災害。襲いかかる危険をいち早く予見し、山岳地帯の集落をはじめ、鉄道や高速道路といった交通インフラに対して、いかに素早く避難勧告を行えるかが生命線です。そこで注目されているのが、カメラとセンサーの連携で土砂災害の危険性を可視化するシステムです。土砂は水分が入っていく過程で性質が変化していきますが、この特徴に目をつけ、土砂が含んでいる水分の量から、土砂崩れの予兆を検知します。
ここでも、太陽光パネルと携帯電話の通信網がシステムのバックアップに深く関わり、より多くの箇所への設置が期待されています。こうしてカメラが増えることで、災害発生前に住民などへの連絡が可能になり、スピーディーな避難、ひいては安全確保の実現につながります。
さらに、このシステムは火山の危険予知にも応用が利きます。国内に100以上の活火山を抱える日本では、噴火対策は喫緊の課題ですが、対策の一つとして期待されているのが、万が一の際の異常を、映像と温度の両方で可視化できる温度アラームカメラです。このカメラのしくみは、あらかじめ温度の正常値を設定しておき、その設定温度を上回った場合や急激な温度上昇があった場合に、アラームで通知します。夜間でも、高温を感知できるので、最初の噴火時はもちろん、二次災害を回避する目的でも有効活用が期待されています。
防災カメラをとりまく課題
もちろん、防災カメラにも課題はあります。その典型例が一元的な管理がなされていないことです。多くの自治体では現在、部門ごとに目的に応じた監視カメラシステムを導入しています。例えば、河川部門が管理するダムの監視カメラ、道路部門が管理する交差点の監視カメラ、港湾部門が管理する船の入出港の監視カメラ、観光部門が管理する史跡の監視カメラなどですが、行政の仕組み上、一元的に管理しているところは少数です。
防災や減災を効率よく進めるには、こうした多種多様なカメラを一元管理することが欠かせません。一元管理によって広域的な情報共有が迅速にできますし、必要な情報が適切な部署にリアルタイムに伝わることで、効果的な災害対策が実現します。即効性のある初動対応はもちろん、対応の進行状況や効果の確認も、カメラの映像で一目瞭然です。
防災カメラの今後
住民の生命財産を守るために最重要な防災カメラですが、報道や自治体関係者といった一部を除き、どこにカメラが置かれているかわからない人も多いのではないでしょうか。状況によっては、ズームやパンなどを駆使するので、プライバシーに配慮する必要も出てきますが、自然災害が多い日本だからこそ、住民に防災カメラの設置を周知することはとても大切に思えます。そしてライブカメラでの配信がもっと広く浸透すれば、従来以上に防災に役立つことが期待されます。
住民への周知手段としては、PR動画も一つのアイデアと言えるでしょう。プラットフォームはオンラインでもDVDでも構いません。防災カメラのPR動画を制作し、それを各行政機関に配布したり、YouTubeなどの動画投稿サイトへアップロードしたりするのは、時代ならではの有効な手段です。むしろ若者へのアプローチはこちらの方が効果的かも知れません。先述したカメラシステムの一元化も含め、映像のトータルプロデュースを制作プロダクションに一任するという選択肢もありだと思います。プロダクション側にしても、自分たちが培ってきた映像技術のノウハウが、住民の安全安心につながるとなれば、この上ない喜びと言えるのではないでしょうか?
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 進也