ニュース、ドラマ、バラエティ、そして歌番組と番組のジャンルごとに大きく差が出るのは「出演者の目線」です。かつては、ニュース番組の場合、キャスターのカメラ目線が定番でしたが、今では解説コーナーなどで、斜め下からのアングルで撮ったりするシーンも見かけるようになりました。討論番組などでは、パネリスト同士の目線のやり取りや、相手に追及される姿に、目線を外して黙考する姿など、視聴者を引き付ける充分な要素になっています。一方で、ドラマは目線を外すのが定石ですが、場合によっては、わざとカメラ目線で撮り、出演者の意思をより強調する演出もあります。歌番組では歌手が急にカメラ目線になることで、視聴者がより共感しやすくなることもあるでしょう。今回は出演者の「目線」にスポットを当て、撮影アングルのバリエーションがもたらす効果についても探っていきます。
「真正面カット」は諸刃の剣?!
人物を撮影する際、真正面から被写体を押さえるのは基本中の基本です。先述のニュース番組はもちろん、バラエティでも司会者は多くの場合、カメラ目線です。しかしカメラ目線の映像が長くなると、視聴者側は圧迫感を感じてしまいます。もちろん、経営者や政治家などトップのメッセージを伝えたい場合には、対象者を真正面から撮影した方が、訴求力には長けますが、視聴者にはずっと緊張を強いることになってしまいます。ラストで視聴者へ強く語り掛けたり、重要なポイントで真正面の目線を使ったりするなど、時と場合を考えて効果的に使うことが肝要です。
目線を外すことで生まれる「リズム」
街頭録音など、一般的なインタビューの場合、目線をカメラから外して撮影します。これは絵画やデザインでも用いられる三分割法とよばれる手法で、バランスの取れた安定した構図になります。この場合、カメラマン、インタビュアー、インタビューされる人が三角形になる配置で撮影します。三角形の一角にインタビュアーがいることで、インタビュー対象者の目線が安定します。
1本の動画で複数の人にインタビューする場合は、人ごとに「左目線」、「右目線」と変えることで動画にリズムが生まれます。これは選挙取材などでも応用でき、例えばA候補は左目線、B候補は右目線というように撮影すると、政策主張の対比もわかりやすくなります。これが「左目線だけ」「右目線だけ」という動画だと、リズムが生まれず、視聴者はただならぬストレスを感じます。同一目線は3人と続けられません。ただし、同一人物へのインタビューの場合、左目線、右目線の撮影を混在させるのは、視聴者に位置関係を混乱させるので、特別な意図が無い限り、ご法度です。
なお、最近の報道・情報番組では、インタビューにテロップを表示することが当たり前になっています。昔気質のカメラマンの中には、「テロップやナレーションがなく、映像だけですべてわかるのがベスト」だと主張したりする人がいますが、今の時代、映像素材にテロップを入れるのは、特別な指示がなくても、最早、セットといえます。ですから、テロップ挿入を想定して、構図を決める必要があります。例えば、テロップを「画面の下部」に表示したいならば、撮影の際、下部のスペースがやや大きめになるように構図を決めます。最近のインタビュー動画は「どアップ」が少なく、どちらかといえばルーズ目(余裕のあるサイズ)が多いのも、テロップ挿入を想定した撮影が前提だからといえるでしょう。
定石に捉われない「目線」が活躍するドラマ
「目線外し」は、現代に続くドラマでも通底しています。共演者とのやりとりなのに、カメラ目線が続くのは不自然ですし、役者の目線がストーリーの伏線を左右する局面も多いからです。ただし、演出によっては意図的にカメラ目線を使う場合もあり、思わぬ効果を生み出すこともあります。歌番組でもかつては「目線外し」が定石でした。しかし、最近は歌手自らがサービス精神を発揮し、カメラ目線で応じる演出もおなじみになっています。この場合、カメラのスイッチングは歌手をはじめ、演出側とも予め綿密な打ち合わせが必要です。これがおざなりだと、せっかくのカメラ目線なのに、ロングショットだったり、アップで撮っているのに、歌手側が無反応だったりと演出そのものが台無しになりかねません。カメラリハーサルでカメラ割りと合わせてカメラワークとスイッチングが重要になってきます。
目線とアングルは「セット」で想定
被写体を撮る角度のことを「アングル」と言い、目線とセットで語られます。アングルは3つあり、それぞれ視聴者に与える印象が変わります。民生用カメラの場合は胸の高さで撮影することもありますが、放送現場の場合、多くはカメラを肩に担いで構えます。その際、目線はカメラマンの「アイレベル(目高)」です。ところが子供を撮影する場合、カメラマンの「アイレベル」なのか「子供の目線」まで下げるか、さらには低く大人がしゃがんで子供を見上げて撮影するかによって、印象は大きく変わってきます。ここではアイレベル、ローアングル、ハイアングルとそれぞれの特徴と効果について、掘り下げてみます。
まずは「アイレベル」です。目高(めだか)や水平とも呼ばれ、人物に目線を合わせ、自然な角度で撮影します。普段見慣れた高さなので安定感があり、偏りのない公平な印象を与えます。特別な意図がある場合を除き、人物に目線を合わせた撮影が基本です。
次は「ローアングル」です。「あおり」とも呼ばれ、人物を下から見上げる角度で撮影します。大きさが強調されやすく、迫力を表現することができる他、子供や動物を撮る場合、かわいく撮影できるので、多用されるアングルでもあります。また、「アイレベル」のインタビュー本編に入る前に入れるキューカットにも好んで使われます。
最後は「ハイアングル」です。「俯瞰」や「ハイポジション」とも呼ばれ、人物を上から見下ろす角度で撮影します。ハイアングルでの撮影は、視聴者に対し、小さい印象を与えたり、弱く見せたりする効果があります。アイレベルやローアングルに比べて、人物撮影での出番は少ないですが、ドラマでは、人物にズームする直前のカットなどに使われるケースがあります。
編集を想定して目線やアングルを考える
これまで紹介してきた目線やアングルは、いずれもどのような編集をするかで、効果が変わってきます。ドラマの場合は、綿密にカットを練りますが、報道や情報番組の場合は、時間的制約もあって、いざ編集を始めてから、カットの不足に悩み、編集作業が行き詰ってしまうことも珍しくありません。ですから、大抵のビデオカメラマンはインタビュー本編を撮り終えた後、「あおり」や「俯瞰」はもちろん、ツーショットやインタビュアーの肩越しショットなど、バラエティに富んだインサートカットを撮影し、どんな編集にも耐えうるよう万全を尽くします。ディレクターやインタビュアーと連携を密にし、最終的な完成形を想定した上で、ファインダーを覗くことこそ、プロのプロたる所以ですが、「目線とアングル」にこだわるのは、その「第一歩」かも知れません。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太