いまやYouTuberは子供のあこがれの職業にもランクインしてくるほど、大人気になっています。ひと昔前なら、市井の一般人たちが主力でしたが、近年はタレントのYouTube進出も目覚ましい一方、無名の中から人気者になったYouTuberがテレビに殴り込みをかけるなど、垣根がなくなりつつあります。特にテレビから離れている若年層にとっては、タレントよりYouTuberの方が、高い知名度を誇ったりするなど、今後はYouTuberがタレントの影響力を凌駕するのではないかと予想するむきもあります。一方で、有名タレントがYouTuberへ転身しても、振るわない場合があり、テレビの成功体験が必ずしも通用しないことも指摘されています。今回はテレビタレントとYouTuber、さらには近年、進出が目覚ましいTikTokerなどの特徴を検証しながら、「人類総タレント化時代」と言われる現状を探ります。
テレビの規制強化はYouTube隆盛の「反面教師」
日本のテレビは再来年で「古稀」を迎えます。この間、機材の技術革新も伴って、テレビ番組の表現方法は飛躍的な進化を遂げてきました。同時に、テレビの社会的な影響が大きくなるにつれ、様々な自主規制が増え始めました。例えば、70年代には放送禁止用語がクローズアップされましたし、テレビ広告が下火になり始めた2000年代からは、乱立するインフォマーシャル番組への規制が目立ち始めます。違法行為ではないにもかかわらず、こうした自主規制の蔓延は、時代が進むにつれ、テレビの世界を窮屈にしていったという指摘もあります。
ここに誕生したのが2010年代からの「動画投稿サイトブーム」です。日本では、アメリカ発祥のYouTubeと純国産のニコニコ動画が二大サイトになり、テレビでは飽き足らない視聴者が、映像作品を投稿し始めました。特にYouTubeは、チャンネル登録者数と再生回数如何で、投稿者の現金化が可能という「完全実力社会」なことが人気を呼び、YouTube投稿だけで生計を立てるカリスマYouTuberも多数現れました。こどもたちの人気職業にYouTuberがランクインし始めたのもこの頃です。テレビ業界が、スポンサーに気を遣うあまり、同一タレントを頻繁に起用したり、八方美人的な番組を量産せざるを得なくなったりしたのとは対照的に、放送法や放送時間に縛られないYouTubeはハウツー動画や旅行動画、それに過去の映像資産など、テレビでは手薄だった分野をカバーし、国民的メディアに成長していきます。
タレントとYouTuberの違い
タレントがテレビ出演する場合には、一定のルールが存在します。例えば、番組のキャスティングは、テレビ局と事務所が協議して決めますし、共演NGや裏番組への出演厳禁など、様々なしきたりがあります。芸能人同士にも厳然としたヒエラルキーが存在しているので、楽屋挨拶が欠かせなかったりもします。とりわけ、違いが際立つのは関わる人数です。例えば番組の出演者一つとっても、「司会」や「レギュラー出演者」、「ゲスト」と多くのキャストがいますし、そこに関わるスタッフは数十人規模です。一方、YouTuberはYouTubeというプラットフォームだけで、活動しているため、責任はあくまで個人ですし、企画から撮影や出演に至るまで、全て1人で担当するのが主流です。自己顕示欲の発散や組織活動のPRなど、収入とは明らかに関係のない投稿も多く、視聴率の多寡が収入を左右するテレビと違って『視聴者への媚』がありません。もちろん、犯罪につながるなど、行き過ぎたものはYouTubeのガイドラインでもNGですが、規制はテレビと比べ、大幅に緩くなっています。
タレント起用の長所と短所
タレントを起用する最大のメリットはずばり「集客力」です。テレビを主戦場とし、幅広い層から認知されているので、「数字=視聴率」が見込めます。視聴率が好調な番組には、より潤沢な予算が配分され、演出の自由度が飛躍的に高まります。
タレントの起用には、ほぼ例外なく事務所が関わります。いくらタレントに人気と集客力があったとしても、スケジュールやギャラといった出演条件は、芸能プロダクションの差配に大きく左右されます。もちろん、事務所と活動方針が食い違い、独立して個人事務所を立ちあげるタレントもいますが、やはり少数派です。看板タレントと発展途上のタレントをセットで出演させ、事務所全体のブームアップを図る「バーター」出演も多く、制作側としては出番の確保などで、頭を悩ませます。人気タレントには指名が集中しやすく、「どのチャンネルにも同じようなタレントが出演している」と視聴者から苦言が呈されることもしばしばです。
YouTuberの長所と短所
YouTuber最大のメリットは、自分が主体になって、好きなものを発信できることです。カリスマYouTuberならば、テレビタレントと遜色ない人気がありますし、視聴率も見込めます。YouTuberはYouTubeでの発信がメインのため、デジタルに馴染んだ若年層が支持しやすく、50代までの「コアターゲット」への訴求力も期待大です。こうした環境の変化から、YouTuberがテレビやイベントへゲスト出演する機会は年々増え、スポンサーにも、タレントと遜色ない集客力が認識され始めています。ただ、YouTubeは企画から配信まで、投稿作業は基本、一人ですし、テレビに比べれば、制作予算は大幅に少なくなります。参入障壁が低く、気軽に取り組める半面、番組単体としての貧弱さは否めず、テレビ以上に、アイデア勝負が番組の成否を左右します。最近はタレントがYouTuberに転身するケースも増えてきましたが、予算が一定程度の水準にあるテレビと、「家内制手工業」がメインのYouTubeとでは、演出のスタートラインがそもそも異なります。ですから、テレビの人気者がYouTubeでもブレークするとは限りません。
YouTuberからTikToker、そして…。
YouTuberのテレビ進出に加えて、おととしあたりからは、TikTokをはじめとした新たなプラットフォームからも、インフルエンサーが出始めています。TikTokは映像の投稿可能時間がYouTubeなどに比べて、極端に短く、いったん人気に火がつけば、瞬く間に世界へ広がる特性があります。また、スマホに特化しているので、投稿がより手軽で、始めるハードルが低いことも爆発的な広がりにつながっています。当然、ブームに目敏いテレビの世界が放っとくわけがなく、所謂、「TikToker」も最近はテレビへの露出が急増しています。中にはアイドルがTikTokでダンスを披露して話題をさらったこともあるほどです。
そして、テレビ界が次に目をつけているメディアといえば、Clubhouseが筆頭格でしょう。音声版のSNSであるClubhouseは、招待制やiPhone限定という難しいハードルがありますが、リスナーが自由にトークセッションへ参加できる魅力が受けて、すでに人気沸騰です。知識人や政治家なども相次いで参入し、「ラジオが不要になる」とさえ言い切るタレントもいます。恐らく次のスターはClubhouseから発掘されるでしょう。今後の展開から目が離せません。
動画投稿サイトやSNSの出現は、人類を「総タレント化」しました。若者のデジタルなライフスタイルへ向かう動きが止まらない中、テレビや動画制作のキャスティングを考える際も、従来のようなタレント一辺倒では、若年層の興味を引くことが難しくなってきています。数年後のテレビは、ひょっとしたら、YouTuberやTikToker出身者がメインを張っているかもしれません。その時、テレビで育ってきたタレントが、どう巻き返しを図るのか。そして、制作スタッフは新たな時代のテレビタレントを如何に発掘し、育てていくのか。テレビ業界全体の底力が試されていると言えそうです。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 達也