「衝撃映像番組」皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?国の内外を問わず、ドキドキハラハラする映像は視聴者を引き付けるので、特番でも、レギュラー番組でも、根強い人気があります。
ネット上の動画を使う場合はコストパフォーマンスに優れるというメリットもありますし、視聴者投稿を募集するのも盛んです。ただ、コスパを重視するあまり、ともすれば「衝撃映像」を並べただけの番組が乱立傾向にあり、マンネリも指摘されています。今回は「衝撃映像番組」の現状と課題について、探っていきます。
衝撃映像番組のルーツ
報道やスポーツといった分野では、収録にビデオテープが一般化する80年代からNGを集めて、年末や改変期にコーナーや特別番組を作っていました。「珍プレー好プレー」や「女子アナのハプニング映像」といった番組が代表例です。新たにロケや取材をする必要がありませんし、ディレクターやカメラマンが、素材さえ貯めこんでおけば、すぐに対応できるので、各局とも映像資産の再活用に積極化していきます。やがて、災害や動物のほのぼの映像なども登場するようになり、本来、映像素材の再活用のはずだったのが、局の映像だけでは、間に合わなくなってきました。このため、2000年代は、番組内で視聴者撮影のビデオを募集し、編集して放送する番組も増加しました。
成長を後押しした局側の事情
2010年代に入ると、リーマンショックなども重なって、テレビ各社は制作費削減の時代に入ります。その結果、ロケや取材を大幅に厳選せざるを得なくなり、制作側は従前にも増して「金をかけずに面白い番組を作る」ことに頭を悩ませました。こうした環境の下、YouTubeやニコニコ動画といった動画投稿サイトが出現します。これは制作現場に大きな変革をもたらしました。つまり局側で、ロケや取材に行かなくても、動画投稿サイトから映像を借りれば、迫力ある映像が簡単に入手できてしまいます。また、投稿者側にとっても、「テレビで使われた」となれば、創作の励みにつながります。こうして局側の思惑と視聴者側のモチベーションがうまく合致し、今や動画投稿サイトは、衝撃映像番組を作る上で、制作側が目をつけ、欠かすことができないメディアになりました。そもそも投稿の絶対数が多く、リサーチしやすいことで、制作側としては極めて重宝に使えますし、SNSを見る若年層との親和性も高いという側面があります。こうした背景から、最近は局自体が、視聴者投稿用の動画サイトを相次いで開設し始めました。もともとは報道用に発生モノ映像の補完手段としてスタートしましたが、たまに思わぬ衝撃映像が投稿されていることもあり、有力な入手ソースになっています。
レギュラー番組よりも視聴率を稼ぐ「衝撃映像特番」
制作費がさらなる削減を求められている中、昨春の視聴率調査方法の変更で、テレビ局は従来にも増して「個人視聴率」の向上に懸命になっています。しかし局によってはレギュラーのバラエティ番組が、個人視聴率で5%以下、世帯視聴率でも8%以下にとどまっていて、なかなかてこ入れが成就しません。一方で、番組にもよりますが、「衝撃映像特番」の視聴率は、個人視聴率が5%前後、世帯視聴率で9%前後を獲得するなど、レギュラーよりも好調だったりします。レギュラー番組よりも視聴率が稼げる現実に、「衝撃映像特番」を多く放送することで、少しでも視聴率アップにつなげたいという切実な事情が見え隠れしています。先述しましたが、経費や労力が少ない割に視聴率が良く、コストパフォーマンスに優れている上「笑い」や「驚き」「感動」といった多彩な要素を詰め込めるのは、固定ファン層はもちろん、ファミリー層にも届きやすい強みといえます。
進化する演出術と他番組とのタイアップ
この手の番組は、VTR素材の羅列が基本です。このため、そのまま流したのでは、演出が単調になりがちです。そこで各局では、短い動画を連発したり、人気の「動物」動画を入れたりして、視聴者を常に引き付けるよう、工夫しています。短い動画はザッピングされにくく、毎分視聴率が下がりにくいという利点があります。また、動物モノは期待した「撮れ高」になるまで、時間を要するケースが多く、その過程をつぶさに見せる演出にすれば、コーナーの尺(長さ)を稼ぐこともできます。動物のレギュラー番組がない局なら、他の番組とのバッティングが無いので、より動物の動画を扱いやすくなります。
このように「衝撃映像」には驚きや笑など様々な要素を入れることにより、どのような出演者でもリアクションがしやすい面もある上、ある程度の視聴率が見込めることから、他番組との宣伝タイアップで、利用するケースも目立っています。例えば、改変期の番宣タレントが特番へ出演し、ひとしきりリアクションした後、新番組を告知するケースは、一般的な演出としてすっかり定着しています。タレントのギャラは、他の番組とセットになっていることが多く、出演料も安く抑えられます。出演料という面では「ひな壇芸人」の出演も見慣れた画面構成かもしれません。彼らは往々にして、リアクションが大きく、笑いをとりながら、視聴者心理を代弁したコメントを話すので、演出上、うってつけです。
演出の工夫が求められるジャンルに
このように「衝撃映像特番」の隆盛は「制作費削減」「レギュラーバラエティの不振」というネガティブな要因が「低予算と低労力で最低限の数字が取れる」番組の希求へつながった結果と言えます。換言すれば「ローリスク・ローリターン」の策であり、特番が乱立することで、「テレビがつまらなくなった」という声の元凶にされたりします。こうした現状を打破しようと、「普通の衝撃映像特番ではなく、何か工夫を凝らした番組はできないか」という前向きな考え方も芽生え始めています。
例えば、ある局では、出演者に途中まで衝撃映像を見せ、その後の展開をクイズ形式で予想させる演出をしています。また、別の局では、タレントが「笑い」「驚き」「泣き」といった感情を押し殺しながら、我慢して衝撃映像を見るという、いわば「衝撃映像対タレントのにらめっこ」をコンセプトにした特番を立ち上げました。これらの番組は、従来になかった新鮮な演出ですし、人気アイドルを起用することで、若年層視聴者への訴求も期待できます。マンネリを打開する「特効薬」として適しているでしょう。
こうしたアイデア合戦が、今後、他局へ拡がれば、着想次第でバラエティ豊かな番組が次々に誕生し、視聴者を飽きさせないジャンルの構築につながります。
これまで、固定ファンやファミリー層の根強い人気に支えられながら、マンネリも指摘されてきた「衝撃映像番組」。その中で、局や制作陣が様々な試行錯誤を重ねて「新たな形」の番組を世に放とうとしていることは、明るい材料といえます。それは結果的に各局の差別化につながり、ささやかながら、視聴者のテレビ回帰のきっかけにつながるかも知れません。素人撮影の「おもしろ映像」をいかに料理して、ごちそうを待つ視聴者の前に届けるか。コックたるテレビマンたちの底力が試されているといえそうです。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太