番組制作の何でも屋「制作デスク」

番組制作の何でも屋「制作デスク」
2021年3月15日 ninefield

番組の最後に流れるエンドロールを眺めると、プロデューサーやディレクターという職種に交じって、「制作デスク」というクレジットが出てきます。放送の現場というと、とかくアナウンサーやディレクター、カメラマンといった職種を真っ先にイメージしがちですし、スポットライトがあたることも多いのですが、制作デスクがいないと、所謂、「雑務的分野」が前に進まず、番組そのものが行き詰ってしまいます。一般企業の部署で言えば、さしあたり「庶務」で、一見、地味な役回りですが、プロデューサー、出演者、ディレクター、ADのいわば「カスガイ」的な役割を果たす「縁の下の力持ち」と言えます。局によっては「制作管理」と呼ぶところもありますが、仕事内容に差はありません。番組制作の連絡や事務、段取り等を担当したり、秘書的な業務など、制作補助的な役割を果たしたりして、番組のすべてをサポートしていきます。今回は「制作デスク」にスポットを当て、役割や求められる人材像について、探っていきます。



 

 



放送局にいる様々なデスク

今ではコールセンターなどでも「サポートデスク」というポジションがありますが、そもそも「デスク」という職制は、マスコミ業界特有です。例えば、報道で「きょうの放送のデスク」などと言うときは、「ニュースの項目を決める」立場のスタッフを指します。無論、原稿のチェックやスーパーなどの素材発注も含まれ、いわゆる編集長的な役割を担います。一方、編成業務や営業推進部などで活躍する「スポットデスク」や「タイムデスク」は、広告会社やスポンサーから渡ってきたCM素材やスケジュールを確認し、トラフィックと呼ばれる運行部門へ回したり、編成担当と協議しながら、番組のCM枠を提案したりします。今回、紹介する「制作デスク」はバラエティー番組などでは、「アシスタント・プロデューサー」(AP)と呼ばれる職種と近接していて、実際、APが業務を代行することもあります。なお、APが職制としてあるのは、ある程度、規模の大きい「基幹局」までで、地方局では制作部の庶務担当が一切を切り盛りするケースが多いです。

 

多岐にわたる業務内容

「制作デスク」の業務でまず驚くのが、担務内容の幅広さです。具体的には、スタッフのシフトに始まり、出演者のスケジュール調整、企画の進捗や使用素材の許諾確認、編集室の確保や控室の手配といったあたりが、基本的な仕事です。さらにプロデューサーが多忙な場合は、経費の精算業務や、番組に関わる膨大な伝票処理のデスクワークなど、予算の管理まで担います。番組制作上に関わる金銭面全てを担当するので、経理の実務をこなす能力が必要です。
雑用面ではADが多忙で手が回らない場合、現場の弁当手配の最終的な確認や会議資料のコピーなどを手伝ったりもします。他にも、クライアントからの電話や来客応対、出演者のアテンドやお茶出し、さらには、オンエアが済んだ映像の二次使用や、他の番組への使用許諾の窓口など、枚挙に暇がありません。
そして、番組にもよりますが、民生用のビデオカメラを携えて、現場へ撮影に行く場合もあるなど、まさにマルチな活躍です。とにかく番組がスムーズに進むために必要な裏方業務を担い、「番組進行については、分からないことはない」と言える「何でも屋」今流にいえば「ユーティリティ・マネージャー」が制作デスクといって差し支えないでしょう。

 

地味だがやりがいのある職種

ディレクターや演者、技術などと違い、管理がメインの仕事ですので、テレビ局にとっては、明確な成果を与えづらい職種です。基本的に内勤ですし、年中、オーバーワークになるような労働環境ではありませんが、現場業務のスタッフたちは、残業や不規則な勤務体系が多く、心身ともにかなり消耗する場合もあります。ですから、まわりの空気が読め、かつ気が利くことは必須です。それと、ロケや収録の都合で、予定が変わることが多く、先方へ謝る機会も多いです。強引にこじ開けてもらった編集室の予約が、前日の夜中になって、ディレクターから、キャンセルの連絡が来たり、前から考えていたネタが、急にボツになって最初から収録や編集をやり直さなければならなくなったりする場合があります。どんな業界でもそうですが、そうした不測の事態に対し、先方に対して、真摯に謝ることが重要です。一方で、うまく段取りが出来たり、お迎えからお見送りまで、ゲストに不自由がないように進行出来たりしたときは、まさに制作デスクの面目躍如と言えます。こうしてスタッフたちに頼られることでやりがいが感じられる仕事ですので、仲間の信頼を得続け、「なくてはならない」ポジションになれば、長期にわたり安定して働き続けることができるでしょう。

 

求められる人材像

番組づくりがスムーズに運ぶかは、タレントたちに本番でいかに気持ち良く出演してもらえるかがカギになります。言い換えれば、制作デスクによる事前準備や当日の段取り、さらには気配りがうまくできるかにかかっています。したがって、段取り上手な人材は評価が高いです。他にも、素材の使用許諾など、様々な人と多く関わりますので、先述の謝罪も含め、コミュニケーション能力が高いことも必要条件です。
制作デスクになるには、特に必要な資格はありません。ただ、スケジュール管理や、書類作成などを控えるので、基本的なPCの事務スキルは欠かせません。秘書やアシスタント経験があると心強いでしょう。
時には、大学や専門学校を卒業し、初めてのひとり暮らしを経験している若いADたちの体調確認をしてあげたりするなど、お母さん的な役割を担うこともあります。最近はテレビ業界でも、女性がかなり増えてきていますが、男性スタッフから女性のスタッフの体調を聞きにくかったりするので、その意味でも女性の方が適しているかも知れません。このように、できるだけスタッフの不安要素を取り払い、番組づくりをスムーズに進める手助けをする点で、もっとも重要な役回りと言えるでしょう。文字通り、番組全体を見守る「母」のような存在と言えます。

 

未経験者でもチャンスあり

制作デスクは、テレビ業界の求人の中でも未経験者にも門戸が開かれている職種です。もちろんADなどのテレビ業界の経験者が多いですが、ディレクターやカメラマンなどは、ほぼ経験者採用ですから、大変、珍しいです。最初は業界のことがわからなくても、こうした経験を積むことで、業界全体の仕組みを覚えこんでいけます。ディレクターやカメラマンとしての経験ももちろん重要ですが、番組や放送局全体を「予算面」や「著作権」といった目線で俯瞰できることは、番組全体の進む道を考える上で、バランスの取れた判断をするのに好都合です。テレビ業界に興味があり、やる気と熱意があれば、制作デスクの経験をベースに、将来はAPを目指すことも夢ではありません。一番の近道は制作会社の募集に応募し、そこでキャリアをスタートさせることです。もちろん、最初は戸惑うことも多いでしょうが、経験を積むことで、徐々にやりがいや自負心が芽生えてくるはずです。何よりも、「縁の下の力持ち」として、自分が下準備をした番組が、視聴者の評価を獲得することは、代えがたい喜びですし、仕事の励みにもつながります。まずは制作会社の門を叩き、テレビの世界へ飛び込んでみては如何でしょうか?

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要