家事やDIYの番組が増えている

家事やDIYの番組が増えている
2021年3月1日 ninefield

「おうち時間」が増える中、自宅での時間を楽しめるように、家事を楽にするテクニックやグッズを紹介する番組が増えています。以前からあったリフォーム番組にタレントが出演し、自身のリフォームテクニックをいかんなく発揮するシーンもあれば、一方で、これまで家事とは無縁だったタレントが一つ一つテクニックを学んでいく番組も誕生しています。さらに大都市圏の住宅事情を反映して、「収納」のハウツーも一つのジャンルとして、確立しました。この他、料理番組ではプロの料理人にまじって、タレントも腕をふるう等、「生活情報」に括られる分野の人気は隆盛を極めています。今回はキラーコンテンツとしてジャンルを確立した「家事やDIY」の番組とコーナーについて、現状や今後を探っていきます。



 

 



昭和から平成中期までの家事やリフォーム番組

以前より、リフォームや家事を扱った番組は一定の人気がありました。料理番組はテレビの草創期から固定ファンをつかんでいましたし、90年代の初めには「生活の知恵」をクイズ形式で問う番組が放送され、一世を風靡しました。地上波での情報に飽き足らない視聴者には、CSが生活情報の専門チャンネルを放送し、需要を満たしていました。2000年代に入ってからは、狭小や中古物件を見違えるような住まいに変えるリフォーム番組が出現し、現在までブームが続いています。番組はいずれも、建築やリフォームのプロが「難題」に挑戦し、発想や技術を駆使することで、見事に物件を生まれ変わらせることがコンセプトになっていて、多くがドキュメンタリー的な手法で演出されてきました。
これと並んで人気を博したのが「収納」ノウハウの番組です。「ゴミ屋敷の片づけ番組」などに端を発していますが、大都市圏への人口集中で、狭小な住宅環境に悩む人が多い中、効率的なスペースの利用を提示したことは、ブレイクの後押しになりました。こちらも当初は、片付けの一部始終をみせるドキュメンタリー・スタイルで制作されていましたが、次第に「どう片づけたらベストか」というハウツーにも視聴者が興味を示し始めました。折しもYouTubeなどの動画投稿サイトで、収納テクニックを披露する投稿者が出始め、これに目を付けたテレビ局が、番組出演を依頼することで、相乗効果が一気に高まりました。いまや、整理収納アドバイザーやカリスマ家政婦は、メディアだけでなく、全国各地での講演にひっぱりだこです。

 

タレント進出と企業コラボの目論見

そしてここ数年、プロや専門家が主役だった環境に変化が出始めています。典型的な例がタレント自ら、収納やDIY、家事へトライする番組やコーナーの増加です。最近は玄人顔負けのスキルを誇るタレントも現れ、ワイドショーのコーナーの枠を超えて、一つの番組として成立するようになりました。とび職や建築士の資格を所有しているタレントはもちろん、趣味が高じて、プロ並みの技量を誇る芸能人も多く、意外な一面が視聴者の興味や関心を引き寄せました。これとは逆に、わざと家事が不得手なタレントを起用して、一つずつ「出来るスキル」を増やすスタイルの番組も誕生し、コンセプトは他局化しています。他にも情報番組では、タレント間で出来栄えを競わせるコーナーもあって、ゲームの勝ち負けに似た感覚が視聴者の人気を集めています。

テレビ局の立場で言えば、見逃せないのが営業サイドとの関係性です。こうしたリフォーム番組や生活情報番組は、スポンサーとのタイアップがしやすく、ビジネスチャンスの一つとして、うってつけだといえます。具体的には、番組で使うDIYの材料やちょっとした小物を番組スポンサーの店舗で揃えれば、それだけで広告主や広告会社からの評価は上がります。大規模な住宅リフォームや物件探しの場合だと、最近は不動産会社とのタイアップもあり、あらゆる業種とのコラボレーションの可能性が拡がっているといえます。

 

女性が主役の市場

こうしたハウツー番組、リフォーム番組で、女性の存在は無視できません。女性は元々、料理番組でレシピを参考にするなど、男性に比べて、早くからハウツー番組の利用に積極的です。特に共働きをしながら、子育てその他の家事に対応することは、女性にとって、時間の有効な使い方を探るきっかけになります。収納や料理をはじめとする時短ノウハウの番組は、限られた時間を有効に使おうとする女性のライフスタイルにマッチしました。また、DIY系の番組については、作業工具の発達や男性に比べて旺盛な好奇心を背景に、10年ほど前から、DIYに取り組む女性が増え始めたことも背景にあります。仮にテレビを観ただけでは理解できなかったとしても、番組の公式HPやSNSなどに詳しい情報が掲載されているので、いわば「おさらい」がしやすいことも時代ならではと言えるでしょう。リフォームや家事番組に限った話ではありませんが、女性目線で番組やコーナーを制作することが、番組制作者の今後の必要十分条件と言えます。
 

「おうち時間」で増える需要

こうした背景があって、「キラーコンテンツ」としての立ち位置を維持し続けている家事やDIYの番組ですが、「おうち時間」の増加でさらに需要が増しています。「ミニマリスト」や「丁寧な暮らし」などがキーワードとなって視聴者は自宅での生活をより快適にできないかという方向に関心が向き、結果、DIYや家事といったジャンルの人気が、一層高まりました。また、テレビへの「接触率」が増え、総視聴時間が増えたことも、追い風になりました。深夜枠でスタートした番組が、好評につき、ゴールデンへ昇格するケースも出てきていて、ブームは陰る気配を一向に見せません。こうした流れは全国に波及し、地方局でも住宅メーカーがスポンサーになって、リフォーム関連の番組を立ち上げたり、放送本編とは別に「暮らし」に特化した動画チャンネルへ進出したりする局も現れるなど、新たな展開に活路を見出そうとする意欲的な動きが盛んです。ただ、制作側の立場で言えば、リフォームやDIYが絡む番組は多かれ少なかれ、ドキュメンタリー的な要素を求められるので、ロケや編集に時間がかかり、視聴者の需要に対し、現状、供給が追い付いていません。言い換えれば、人的課題さえ解決に漕ぎつければ、番組のジャンルとしては、今後、極めて有望な市場になると言えます。

この現象は、制作会社をはじめとした映像業界にとって、「追い風」になることは論を俟ちません。そして、テレビ以外の動画投稿サイトでも、番組制作の増加が予想されます。当然、手の行き届かない「撮影」や「編集」といった分野をプロへ依頼するというビジネスモデルも確立していくでしょう。即ち、映像業界全体の市場拡大が実現するチャンスが転がっていると言えます。膨らみ続ける視聴者の需要に、映像制作という「武器」を携えた業界がどんな展開で応じるのか。テレビ業界のビジネスモデルが、どう「リフォーム」されていくかと軌を一にしていくように思います。新たなマネタイズについて、関係者の「知恵の絞りどころ」が問われています。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介