音声メディアであるラジオはもちろん、テレビでも入らない番組は見ないくらい、ナレーションは現代の番組において、必要不可欠な分野です。また、アニメ作品におけるアテレコは、それ無しでは作品が成立しません。その重責を担うのがナレ―ターや声優で、最近はスターといっていい人材も増えています。
「出来上がった画面に対して、声を当てて(インサートして)いく」という点では、番組のナレーションもアニメのアフレコも一緒ですが、中身は全く異なる業種と言えます。番組の内容を視聴者にわかりやすく正確に伝える、あるいは番組のカラーに沿って、さらに面白くしていくことがナレーションの肝であるならば、アニメアフレコはアニメーションの役の設定を大前提に、セリフの量や時間が限られた中での演技が求められます。また、声優は声や性格をかえるなど、たくさんの芸の引き出しを駆使して、映画の吹き替えやゲームのキャラクターといった現場で、演技の中での説得力も求められるといえるでしょう。今回は、ナレーターと声優の業務の違いにスポットを当てつつ、就職の方法も含めて、とりまく環境を探っていきます。
表現力と「話し方のスキル」が問われるナレーター
テレビやラジオなどの番組に合わせて、進行を含めたナレーションを行うナレーター。番組内における『語り』を担当するポジションで、声だけで、内容や状況を分かりやすく解説し、視聴者を引き込ませる役割を担っています。
番組ナレーターはバラエティやワイドショーなどの番組が制作されるようになってから生まれた、新しいジャンルの声の仕事とも言えます。ゴールデンタイムに放送されている番組のナレーターの声を聴いただけで、どの番組かわかってしまうくらい、ナレーター自身の感情表現力や、個性、話し方などで、番組のカラーが決まります。
TV番組のナレーターの場合、ニュースやバラエティ、ドキュメンタリーなどの現場が多く、たずさわるジャンルは多岐にわたりますが、特に、バラエティ番組のナレーターは、映像やテロップに合わせてナレ―ションを入れて、番組の幅を広げるだけでなく、「強烈な個性」で、時には番組の進行役の部分までを補うスキルが求められます。文字通り「影の主役」といって良いでしょう。ナレーションを聞くだけで、番組タイトルが分かる位になれば、売れっ子ナレーターの仲間入りを果たしたといっていいかも知れません。
例えば絶妙な間の取り方は、無意識に視聴者を番組に引き込ませる要素として重要ですし、他にも、声のトーンを自由自在に変えられる技術を持っていれば、そこに表現力を加えることで、更に説得力が増します。換言すれば、アナウンサー、声優両方のスキルが求められているとも言えるでしょう。実際に、ナレーターとして活躍をする為には正しい発音や発声、そして何よりも言葉を正確に伝える必要があります。ですから、滑舌良く話す為に早口言葉を練習したり、強弱をつけてしっかり話したりするトレーニングが求められます。ただ、最近は番組のコンセプト上、制作側で、「関西弁」や「東北弁」といった方言でのナレーションを企図するなど、必ずしも共通語のスキルを求めない場合もあり、よりバラエティに富んだ起用も増えています。
声色のバリエーションが「声優」の命
声優は何よりも、キャラクターを演じるという点に尽きます。ですから、様々なキャラクターを演じることが求められる為、ナレーターのところで説明した「正しい発音や発声、そして何よりも言葉を正確に伝える」というスキルに加えて、そのキャラクターに合った様々な声の出し方の練習をする必要があります。やはり多くのキャラクターを演じることが出来れば、その分、需要が高まり仕事の幅も広がるといえるでしょう。
ナレーターや声優になるには…。
このようにアテレコとナレーションは内容こそ違いがあるものの、一方で「声で表現する」という共通点も多いため、ナレーターと声優を両立している方もいます。それぞれで求められる能力は違いますし、番組によっては、趣のある声を求めて、年齢を重ねたベテランを起用することもありますが、「内容が大きく異なる」声の仕事を両方こなせるというのは、大きな魅力といっていいでしょう。
一般には声優として基礎訓練や実績を積んだ上で、ナレーションのフィールドに進出する人が多いようですが、地方の局アナ出身もかなり多く、競争は激しいと言えます。現在、ナレーターや声優は、ほとんどがどこかの事務所所属ですが、クライアントから、実績が評価されれば、事務所から独立し、フリーランスになる人もいます。
ナレーターや声優になるには、ともにアナウンスや放送制作の専門学校が一番の近道です。また、かなりの狭き門にはなりますが、アナウンサーとして、放送局に入る他、劇団や芸能プロダクションの研究生として場数を多く踏むことも、選択肢として考えられるでしょう。
大都市圏と地方の環境の違い
これまで、ナレーターや声優が市場として成り立つのは、東京や大阪といった大都市圏が主でした。このため、多くの地方局では、いまだにナレーションや声優が必要な仕事は、局に所属するアナウンサーの専売特許のイメージがあります。これはCM制作も一緒で、スポンサーや代理店からの指定がない限り、地方でいまだに残る「フリップ1枚」のCMなどは、局アナの読みがほとんどです。さらに言えば、最近は数がやや減少しているものの、自局の報道に演出上の意味を持たせるため、「記者リポート」というスタイルで、記者がナレーション収録を行うケースもあります。
一方で、最近はインターネットの発達により、個々のナレーターも、自前で作ったボイスサンプルをWEBやSNSに簡単に公開できるようになりました。機材の低廉化も手伝って、自宅に録音設備を整えられれば、収録スタジオへ行かなくても、添付ファイルで納品することもできるようになっています。ですから、予算さえ許せば、地方局でも在京や在阪の声優さんへオファーできますし、地方在住でもスキルさえあれば、東京や大阪の仕事を受注できる時代になったといえます。その分、競争は激化の一途をたどっていて、制作側としては「番組のカラーに、どの声が合うのか」といった模索を日々、続けています。
動画投稿サイトへの起用も新たな市場に
YouTubeやTiktokといった動画投稿サイトの需要拡大を踏まえ、最近は自動でナレーションを生成できるアプリも増えていますが、学習機能の蓄積が必要なため、はじめは極めて機械的だったり、イントネーションやアクセントに違和感があったりして、実際に現場で使えるようになるまでには、時間を要します。ならば、先述のように、WEBやSNSでボイスサンプルを公開している人もいますので、思い切って、プロのナレーターや声優に、依頼してみるというのもありかも知れません。その際、個人でアプローチするよりも、制作一式をプロダクションへ任せた方が、経験豊富なプロの目で、最適な語り手をリサーチするので、安心です。才能のある人材を手配するという点では、プロダクションは実にさまざまなノウハウを持っているからです。社内広報や告知動画、Eコマースなど、これから動画での展開をお考えの方には、企画効果が思うように見込めず、せっかくの予算が無駄遣いに終わらないためにも、ぜひ、プロへの相談をおすすめします。
テキスト:ナインフィールド
ディレクター 高橋 孝太