フロア・ディレクターの腕の見せどころは?

フロア・ディレクターの腕の見せどころは?
2020年12月7日 ninefield

テレビを観ていると、時々、画面に映って、(見切れといいます)カメラの前で、インカム(=
マイクつきのヘッドセット型通信機)をつけて、スケッチブックを持って座っているスタッフに気付いたことがあると思います。これが「フロア・ディレクター」です。
「フロア・ディレクター」は収録や生放送をするときにスタジオを仕切るディレクターのことで、放送現場では「FD」と呼ばれます。番組の流れ、構成、台本、編集などすべてのことに関わり、所謂、スタジオまわりにおける「司令塔」です。
番組から、制作者の意図する楽しさが視聴者に伝わるかどうかはFDの手腕が関わる要素もかなり多いです。今回はFDという仕事の魅力にスポットを当てながら、求められる人材像や就職の方法を探ります。



 

 



多岐にわたる仕事と現場のムードメーカー

先述の通り、FDの業務は多岐に渡ります。まず、本番前のカメラリハーサル(=カメリハ)では、生放送やスタジオ収録がスムーズに進むよう、本番と同じようにフリップなどを出し、置く場所やどのカメラで撮影する、いわゆる「抜く」のかを決めたりします。

番組が始まると、総合演出の指示を出演者やカメラマンに伝えたり、どのカメラで撮影しているのかを出演者に知らせたりするのをはじめ、CMの入りや明けのカウント、カンペ出し、パネルや出し物の出し入れのタイミング指示など、まさに多忙を極めます。出演者やカメラ、「ブツ」だしなど全ての動線を把握して、番組の流れや他のスタッフにどういった仕事が必要になってくるのかをしっかり理解して指示を出さなければなりません。

御存知の通り、テレビ番組は、出演者はもちろん、たくさんのスタッフで作り上げます。当たり前ですが、生放送の場合、一旦、番組が始まってしまえば、終わりまで1秒も待ってくれません。例えば、リハーサルで引っかかった部分は、先回りで指示を出すなどして、ミスを防いだり、とっさにカンペを手書きして、セリフが飛ぶのを回避したりといった「ファインプレー」を求められる場面が非常に多い番組です。

予測不能な事態が起きた時に、最初に連絡があるのは「番組の司会者」ではなく、副調整室、通称「サブ」です。そこで、プロデューサーをはじめとする現場責任者が、どのように対処するかを判断し、FDへと伝えます。当然、FDは番組の司会者へ伝達しますが、その伝え方や対処の仕方で今後、司会者からの信頼が得られるかどうかが問われてきます。
つまり、どんな事態が起きても、冷静かつ機敏に対応し、出演者やカメラマンなど、スタジオまわりへの影響を最小限に押さえていくことが、FDの腕の見せ所でもあります。「回しの上手さ」とも表現できますが、これは誰かに教わるものではなく、経験を重ねることによって培われるといっていいでしょう。
 

FDに求められる人材像

FDの魅力は、なんといっても、他では絶対に味わえない「特別な現場」を最前線で体感出来ることでしょう。芸能人やスポーツ選手、政治家に至るまで、あらゆるゲストとのコンタクトが可能ですし、接し方の経験を積むことができます。また、地方からの中継担当になった場合は、美味しい地元の味覚を味わいながら、地元局のスタッフと打ち合わせをすることも多く、旅好きの人にはうってつけといえるでしょう。

FDになるには、特別な資格は要りません。ただ、出演者やスタッフが気持ちよく働くための気配りや、指示を的確に伝えるコミュニケーション力は不可欠です。それと、俊敏性や即応性が非常に求められるので、「じっくり面白い物を作っていく」という感覚よりは、その時々に応じて、面白いものに反応できる力が大事といえるでしょう。何より、スタジオでは、「ムードメーカー」としての役割も大きいので、明るくハキハキと仕切りが上手い人に向くといえます。
 

FDになるには、テレビ局か番組制作会社が必須

FDとして働くには、テレビ局か番組制作会社に入社する必要があります。NHKや民放を問わず、専任のFDを配置しているテレビ局や番組は少ないので、多くの場合、ディレクターやアシスタントディレクター、いわゆる「AD」がFDを兼務します。この他、ローカル局で報道特番などを放送する場合は、記者が「FD」につくこともあります。

ADが兼務していることでもわかる通り、もともとFDという職種は、ディレクターへ上がるための登竜門的位置づけであり、ここで制作者として、放送現場の基礎を学びます。ですから、FDを兼務しているディレクターやADは、遅かれ早かれプロデューサーやディレクターへ昇格していきます。ゆくゆくは管理職として、テレビ番組だけでなく、テレビ局や番組制作会社全体を支えるケースが多いので、局や会社の社員として、専任のFDを続けることは難しいですが、最近は特別な現場を最前線で体感できる魅力から「FDとして働き続けたい」という声が増え、大都市を中心に、FD派遣の専門会社も出始めています。
 

テレビ業界につきものの「残業」が皆無

ディレクターやADが兼務の場合はともかく、専業のFDは、台本を読み、その通りに進められるよう指示を出すのが仕事なので、基本的に「台本づくり」には関わりません。台本が届く当日の朝から、放送が終了するまでが、FDの業務範囲です。最近は「働き方改革」の影響で、だいぶ少なくなりましたが、ディレクターやADたちが、ときに徹夜までする「台本づくり」や「台本作成のためのリサーチ」をやらないので、無制限に仕事が長引くことはありません。

オンエア当日は放送の数時間前に局へ到着し、メールなどで予め受け取っていた台本を基技術スタッフなどとの打ち合わせが始まります。その後、出演者の到着を待って、スタジオでのリハーサルがスタート。出演者やカメラの動き、それにセットの搬入など、台本に従って指示を出し、流れを確認していきます。必要なら「バミリ」(=立ち位置などの目印)を追加するなど、本番に支障をきたさないよう、準備を万端に進めます。

放送終了後は、手早く撤収して解散。翌日以降に向けた台本作りやリサーチなどはディレクターやADの仕事なので、FDはほとんど残業なく帰れます。余裕のあるシフトで週2日は休めますし、7日以上の連休がとれる場合もあります。
 

メリハリをつけて働きたい人にはお勧めの職種

FDは激務が少ない割に、放送現場の基礎をしっかり学べるなど、魅力的な反面、前述のように管理職へ昇格するといった組織の事情もあり、慢性的な人材不足に陥っています。ですから、これからテレビ業界で頑張ってみよう、あるいは業界に興味があるという人には、チャンスの多い職種といえるでしょう。確かに臨機応変な対応を求められる場面が多く、本番中も常に緊張を強いられるポジションですが、その分、休みがしっかりしているので、メリハリをつけて働けるという点ではメリットは大きいと思います。

情報番組で常に最新のトレンドに触れていたいという人でも、あるいは芸能人や有名人に会えるというミーハーな理由でも、業界は常に新たな人材を求めています。放送業界への就職を考えている人は、ぜひ一度、FDという職種に目を向けてみてはいかがでしょうか?
また、FDはディレクターやプロデューサーへの登竜門としてのポジションでもあるので、今後、放送業界でステップアップしていきたい人もFDを経験しておくべきでしょう。
 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人